誰かが言っていた。
強くなるためには修行あるのみ。
でも別の人が言っていた。
気づいたら強いと呼ばれていた。
大会開催の日が近付いてくる。
少年はどれくらい強くなったのかな。
私はどれくらい戦えるようになったのかな。
私も少年も、その事が気になり始めた。
「気にするな。修行に専念しろ。実力など、勝手に身についているものだ」
「で、でも」
少年は戸惑っている。
今の自分がどれくらい強いのか。
そして、全く何も変わっていないんじゃないのか。
迷って迷って戸惑っている。
大会に出ていいのか。
大会に出られるほど強くなっているのか。
「迷いがあると言う事は修行が足りないと言う事だ。素振り3千本、始め!」
「ええっ、そんなぁ」
「いいからやれ!」
有無を言わさず。
でもあれでいいのかも。
悩む余裕が無くなったら、修行に専念できるかも。
「そうだねぇ。その方法が少年に合ってればの話だけど」
首をかしげる。
「前向きに頑張れる人がいれば、そうじゃない人もいるってことだよ」
私はリザードマンとラージマウス二人を相手に修行中。
手に持っているのは細長い枝。
枝を折らずに二人を叩くのが修行。
難しい。
少しだけ少年を見る。
首をかしげる。
少年はあまり素振りをしていない。
ショートソードを振っているけど、素振りをしている感じがしない。
「余所見をするな!」
リザードマンが怒って切りかかってきた。
剣で受けて後ろに回りこむ。
「甘いぞ!」
リザードマンが尻尾で叩いてくる。
私は上に跳ぶ。
「くっ」
防がれた。
「私の尻尾も通用しなくなってきたか」
だって、後ろに回るといっつも尻尾。
今度やったら、掴む。
「そ、そうか。では掴まれないようにしないといけないな」
「ほんと、基礎能力が物凄く高いよね」
「ああ。技はまだまだ未熟だが、異常に高い能力がそれをカバーしている」
首をかしげる。
折れないように当てるのは難しい。
だから当てやすい場所に行くだけ。
「ある意味で正しいが。常に背後に回れるとは限らんぞ」
お昼ごはん。
少年はやっぱり暗い。
「少年。強くなる気はあるのか?」
少年はゆっくりと頷く。
でも、力が無い。
少年の元気が無い。
何でだろう。
ドラゴンと友達になるために強くなるんじゃなかったのかな。
強くなる事、諦めちゃったのかな。
少年も。
何だか、凄くやだ。
「え、ちょっと、どうしたの!?」
少年の手を掴んで走る。
何時もの特訓の場所を越えて。
薬草採りのポイントを抜けて。
走る。
たどり着いた場所は、山の高い場所。
足場は全然なくて、私と少年の二人が座るスペースしかない。
私は少年の手を繋いだまま座る。
「た、たかいね。すごく、たかい」
少年は震えている。
人間も魔物も、高い所から落ちたら大怪我をする。
少年が怖がるのも無理ない。
「どうして、僕をここに連れて来たの?」
震えながら少年は私を見る。
じっと、私を見る。
ドラゴンは怖い。
物凄く怖い魔物。
ドラゴンと会うってことは。
こう言う事。
少年が息を呑む。
少年の夢を叶えるためには、これくらいの怖さは乗り越えないといけない。
そうじゃないと。
話なんて出来ない。
「君は、ドラゴンを見た事があるの?」
うなずく。
「戦った事はある?」
首を横に振る。
「そう、なんだ」
戦った事は無いけど、遊んだ事ならある。
でも、ドラゴンと遊ぶ人間って居るのかな?
首をかしげる。
「あ、そうじゃないんだ。君だったら、ドラゴンに勝てるかもしれないなぁって、思ってさ」
首をかしげる。
少年はドラゴンを倒すために依頼を受けた?
「そうじゃ、ないんだけど。話が通じるのかなぁって」
うん、それはわかる。
ドラゴンってみんなプライドが高い。
「そうなんだ」
うなずく。
「話をする前に戦いになって、それでやられちゃったら。お父さんとお母さん、凄く悲しむだろうし」
うん、きっと悲しむ。
「それに、僕が話をして人を襲う事を止めさせないと。誰か強い人にやられちゃうんじゃないかなって」
きっとやられる。
いつかやられる。
「それでもさ。僕、全然強くなくってさ。強くなれなくってさ。結局口だけなのかなって思ったら」
少年を抱きしめる。
少年はびっくりしたけど、抵抗しない。
ドラゴンはプライドが高いし喧嘩っ早いドラゴンも多い。
でも、最近の魔物は全然人を殺さない。
少年が諦めなかったら、何度でもチャンスはある。
それに。
噂で聞いた話だけど。
全然戦う力のない商人さんでも、ドラゴンが人を襲うのを止める事が出来たみたい。
「そ、そうなの?」
正確には、二人は夫婦になった。
旦那さんが色んな食べ物や宝物を巣に運んでもらうようにしたみたい。
町を守る代わりに、たまに町に下りてちょっか
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