強いものは群れたがる。
自分の強さに自信があるから強さが求められる場所へ赴く。
同じ事を考えている人多ければ多いほど、同じ場所に集まる。
強いものは誇示したがる。
自分の努力の結晶を自慢したがる。
どの魔物を倒したのかとか、どんな武器を手にしているとか、どんな栄誉を貰ったとか。
「参加してみよう。僕も、どれくらい強くなったのか知りたいし」
少年に連れられた場所はちょうど、そういう場所だった。
闘技場。
戦って強さを証明する場所。
「参加者はお父さんでいいんだね?」
「いえ、僕とこの子ですけど」
「……ウチは子供向けの闘技会は開いていないよ」
「それでもいいんです。受けたいんです」
「悪いけどあと10年経ってから来てくれ」
受付の人の言い分はわかる。
この闘技場では、トーナメント形式で大会が行われている。
同じ位の強さの人でないと、負傷も疲労も少ないまま楽に上がれる人が出てきてしまう。
戦ってからじゃないとわからない事が多いとしても。
子供が大人より弱いのは試すまでもない。
「それでも、出たいんです」
少年の思いは届かない。
そして、実力も。
私は少年の手を引く。
少年は驚いて私を見た後、肩を落としてしまう。
「冷やかしはいいから帰ってくれ」
受付の人が手を動かして追い払う。
すると、その受付の人が後ろから誰かに叩かれた。
「ごめんね。彼は闘技大会が凄く好きなんだけど、たまにそれが行き過ぎちゃう所があって」
「い、いえ」
現れたのは糸目のお兄さん。
「君は闘技大会に出たのかい?」
「はい、出たいです!」
「それじゃあ、一月待ってくれるかな」
「ひとつき? どうしてですか?」
「先輩! まさか、あの大会にこんな小さながきを出すのですか!?」
首をかしげる。
糸目のお兄さんが言うには、一月後に大きな闘技大会が開かれるみたい。
その大会はたくさんの人が来るので、闘技大会に出るために予選を勝ち抜く必要がある。
実はその予選、年齢も性別も関係なし。
ただ一つ、「人間」であれば誰でも参加していい。
この大会は年1回行われているとても大きな大会で。
だからこそ、魔物が紛れ込まないように対策をしている。
ずっとずっと昔から、魔物の対策をしている。
魔王が代替わりしてからも、魔女の参加を見破ったと言っていた。
「君がどれくらい強いのか、僕にはわからない。でも、一月後を目指して特訓をすれば、きっと今よりもずっと強くなれるんじゃないかな」
「そうですね。ぼく、がんばります!」
私は少年の手を引く。
少年は喜んでいる。
だから私は少年の手を引く。
「頑張ろうね! 一緒に本戦に出られたらいいね!」
糸目のお兄さんは少年が予選で敗退する事を知っている。
知っているから、追い払う口実として一月後の大会を教えた。
もう2度と闘技大会に少年が来ないようにするために。
糸目のお兄さんは私が普通でない事を知っている。
魔物かどうか、そこまで気づいているかはわからない。
糸目のお兄さんは私に、一度も笑いかけなかった。
「すみません! これから一月の間、よろしくおねがいします!」
「あいよ。小さな挑戦者さん」
その日から少年と私の。
大会に向けての特訓と。
生活費を稼ぐためのクエストの日々が始まった。
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