強い戦士になりたかった。
誰よりも強い戦士になりたかった。
そう言っていた、大剣を携えた若い剣士がいた。
彼は少年といえるほどの若さで、大人でも難儀する大剣を軽々と振り回していた。
並み居る他の剣士たちを打ち払い、盾を構えれば盾ごと、鎧を着込めば鎧ごと。
力任せに全て切り伏せていた。
ドラゴンを倒してみせる。
それが彼の口癖だったみたい。
それならと私は、大剣を借りて試してみた。
その翌日。
彼は人前から姿を消した。
後日、彼の事について風の噂で聞いた。
彼は剣士の道を諦めたという。
「お世話になりましたー!」
今回は雨が降ったこともあって、宿には長くお世話になった。
二人でお辞儀をして、隣の村を経由して次の村へと向かう。
道中で盗賊は出ないし、魔物もいない。
経由した村で怪我をした盗賊の話を聞いたぐらい。
何でも岩の塊にはね飛ばされたとか。
あと、小さな女の子を見ると悲鳴を上げるとか。
ゴーストにでも脅かされたのかな。
誰かが言っていた。
力には代償がいる。
誰が言っていたのか思い出せないけど。
誰かが言っていた。
「へっへっへ。ガキ一人にじゃりんこ1匹か。おい、じゃりんこ。そのガキ置いてけ」
斧を持った牛乳、もといミノタウルスが現れた。
「う、うわぁ。ミノタウルスだ!」
「身構えてもむだむだぁ!」
少年の構える剣は斧で弾き飛ばされる。
盗賊の中の一人に、見知った顔が合った。
彼は私を覚えていたし、私も彼を覚えていた。
「親分は岩に轢かれた。それだけだ」
彼の持っていた武器は棍棒。
子供でも扱えるような小さな棍棒。
彼は私と話をする間、ずっとそれを握り締めていた。
「へっへっへ。ガキを犯すのは久しぶりだけど。今日は一段と萌えるねぇ」
「ぬ、脱がさないで〜!」
「やなこった」
少年の服を剥ぎ取ろうとするミノタウルスの腕を掴む。
「あん? 邪魔すんな!」
ミノタウルスが私を引き剥がそうと腕を動かす。
でも動かない。
「ちっ、ちょっとは力があるみたいだな。けど、あたしに力で勝てると思うなよ」
でも動かない。
「へへ。あたしの本気を出させるとはねぇ。楽しい、楽しいねぇ」
でも動かない。
「ぐ、ぐぐぐ。マジかよ。あたしよりも小さい癖に、なんて力だ」
でも動かない。
「くそ。勇者ってやつかい。まったく、魔物よりも魔物じみているよ。この、化け物」
でも動かない。
「いや、痛いって。痛いから。ああもうわかったから手を離してくれよ。もう諦めるからさ」
でも動かない。
「いつ、いつつつつ! ちょ、痛い! 痛いって! 指が食い込んでるから! 悪かった、悪かったって!」
でも動かない。
「い、ぎぃ! わ、悪かったよ。ゆるして、ぎぁ」
でも動かない。
それから、少年が止めている事に気づいて掴むのをやめる。
ミノタウルスはぐったりとして座り込んでいる。
その目が怯えているように見えるのは、きっと気のせい。
私はいま、人間の振りをしているのだから。
「今日はどうしたの? ううん、最近、様子が変だよ」
少年が私の顔を見る。
首をかしげる。
「何かあったの? 僕でよかったら、相談に乗るから」
首を横に振る。
それより次の村に行こう。
ドラゴンが現れる村までまだまだ遠い。
それにこのままだと、また野宿になる。
「野宿は慣れているからいいよ」
首を横に振る。
パンが食べたいから次の村に行く。
「……お腹が空いてるの?」
首をかしげる。
「じゃあ、はい。僕の分だけど、パンをあげるよ」
お腹は空いていない。
でも受け取ったパンは返さず、手に持ったまま。
「じゃ、行こう。あと、ミノタウルスさん。あんまり人を襲っちゃ、駄目ですよ」
一人で歩く道。
二人で歩く道。
私はパンを齧りながら少年を見る。
少年はいつもの様に明るい顔をしている。
私は心の中で、そっと呟く。
少年は。
いつまで一緒に歩いてくれるのかな。
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