束縛少女〜そんなかお、しないで?〜

○種族:アルラウネ
○特徴:巨大な花の魔物。甘い匂いで誘われた人間を捕食する。
    他にも近付いた人間をツルで捕獲するため、危険である。
    また、ハニービーの群れと行動する事も多い。














「なるほど。まだ見つかっていないのか。」
「はっ、申し訳ありません!」
 場所は謁見の間。
 城の主が客人を迎える為の場所であり、主は豪華な椅子に座したまま応対する。
 だが今迎え入れているのは客では無く兵士。
 恐怖に顔を引きつらせたまま膝を柔らかな絨毯に突いている。
 城の主の名は、センハイム=バルトワン。
 バルトワン領を収める老年の当主だ。
 顔には溝の深い皺が数多く刻まれ、頭髪は全て白く染まっている。
 いつ天寿を迎えても良いはずの老体だが、目の色が違う。
 老い先短しとと嘆くでも無く、欲望にぎらつくでも無く。
 深い思慮と威圧を備えた統治者の目だ。
「人魚の血が手に入らないとなれば困るのだ。探せ。」
「ははっ!」
 既に「人魚の血」が逃げてから10日は経つ。
 幾ら新兵ばかりとはいえ、40もの兵士を使って取り逃がした「人魚の血」。
 センハイム公はまだそれを追い続けていた。
「8000ギル。」
「……は?」
「今回の「人魚の血」で使った費用の額だ。お前はこれだけの金があれば、どれほどの民にパンを配る事が出来るか、わかるか?」
 3000ギルもあれば、一家揃って3ヶ月豪華な宿屋で寝泊りできるほどの金額だ。
 それが僅か半月で失われたのだと、センハイム公は説明する。
「君の名前は何だったかな。」
「はっ、ミルフ=バートンです!」
「職業、いや立場は何だったかな。」
「バルトワン特別部隊隊長であります!」
 特別部隊隊長。聞こえは良いが、平たく言えばセンハイム公が自由に使える私兵の事だ。
 その隊長は事もあろうに、落とし穴に嵌って「人魚の血」を逃がしてしまうと言う大失態を犯してしまった。
 捜索を開始したが、全く見つからない。
 焦りと失敗、そして懲罰への恐怖で顔が引きつっている。
 彼を見据えたまま、センハイム公は冷淡に告げる。

「君に2000ギルを与えよう。」
 言われて、ミルフは頭を上げる。
 何を言われたのか理解していないように、表情が抜けている。
 恩賞? まさか、失態続きなのに。
 その疑問を氷解するようにセンハイム公は続ける。
「改めて任務を命じる。「人魚の血」を私の前に持って来い。」
「あ、あの、お咎めはないのでしょうか。」
 センハイム公は恐ろしい。
 城の近くに住んでいる者ほど、公の恐ろしさを身に沁みて知っている。
 故に、罰無しとの言葉が信じられないのだ。
 センハイム公は白く伸びた顎鬚を撫でる。
「咎め罰する事で「人魚の血」が手に入るならばそうしている。」
 お前を殺せば手に入るなら今すぐ殺している。ミルフにはそう聞こえた。
 幾度と無く戦場を経験した彼に、言いようも無い恐怖が走る。
 刃を向けられるよりも、この領主の眼差しを向けられる方が恐ろしい。
「し、しかし。万一国外へ逃亡された場合はどういたしましょうか!」
「国外か。随分と逃げられた物だな。」
「い、いえ、あくまでも、仮定の話でございます!」
 慌てるでもなく、憤るでもない。
 顎鬚を撫でたセンハイム公は告げる。
「ならば海に潜ればよいではないか。」
「うみ、ですか。」
「マーメイドは海に住んでいるのだろう。ならば他の「人魚の血」を捜せば良いだけの話だ。」
 ミルフは絶句する。
 海の魔物相手に海で捕らえるなんて事が出来るのだろうか。
 そもそも海中に入り込んだ所で、捕らえられるのか?
 逆に全滅してしまう。
 弓も槍も剣も通じない海中でせせら笑う魔物の餌にされるだけだ。
「問題ないだろう。海には国境の概念が酷く薄い。広範囲で探して回る事が可能だ。」
「し、しかし、海の魔物相手に、海中での捕獲は。」
「ならば隣国との戦争になるだけだ。」
 それは国境を侵し、隣国へ攻め入ると言う事だ。
 あまりに大きすぎる規模の話に、ミルフは硬直する。
「海中での魔物捕獲と隣国との戦争。君はどちらが好みかな。」


 無能な隊長を下がらせたセンハイム公は、深いため息をつく。
「戦場の経験があるからと隊長に任命したが。計算違いだったか。」
 いっそ刃を突きつければ真剣さも増したかもしれない。
 今から呼び戻した所で意味も薄い。次に呼び出したときにでも試すとしよう。
 ミルフ隊長の不幸な未来を模索していると、彼の傍に一人の女性が歩み寄る。
「如何でしたか。」
「ふむ。やはり兵数を増やして大事にしたのは間違いだった。」
「おまけに人選のミスですか。血の採取だけを先に行う、という思考さえ浮かばないとは、嘆かわしい。」
「仕方あるまい。魔物の討伐
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