薬草採り

「ねぇ。薬草を採りに行こうよ!」
ある朝、少年がよくわからない事を言った。

薬草。
やくそう。
ヤクソウ。
何だろう。
首をかしげる。

「あれ、薬草を知らないの? ほんとに?」
知らない。
何だろう。
「薬草っていうのはね、傷にいい草のことなんだよ。すり潰した汁を塗ると血が止まったり、他にも色々とすごいんだ」

血を止めるのなら血止めの草?
「う、名前は僕も知らないんだけど」
化膿止めなら化膿止めの草。
消毒するなら消毒の草。

「いや、薬草って言っても、種もあったりするんだけどね」
・・・…。
薬草って、何?
「改めて言われると不思議だね」
不思議不思議。

よくわからないけどいい草を探す。
実でも葉っぱでも何でもいいみたい。
少年は二手に分かれて探そうと言っていた。
妙に張り切っていた。
おもしろい。

でも、困った。
怪我をした事が無いから、怪我に利く草を使ったことがない。
母様は胸に傷を負ったから父様と暮らす事になったみたい。
治らないそれは傷じゃなくて病気だと言っていたけど、聞いた話ではどう考えても傷にしか思えない。
病気なら治さないといけないけど、治したくないって言っていた。
傷じゃない傷に、治さない方がいい病気。
不思議なことがたくさんある。

少年が探している草はどんな草だろう。
青い葉っぱ?
白い木の実?
いろいろを引き抜いてみる。

周囲の草とは全然違う変わった草が生えている。
どれくらい変わっているかというと、魔物の匂いがするくらい変わっている。
引き抜こうか、焼こうか。
引き抜いて千切れたら何だか嫌。

仕方が無いので掘ってみた。
ちょっとずつ掘ってみる。
根元から緑色の何かが見えてきた。
突付いてみる。
舐めてみる。
うん、魔物の味。

もう少し掘ってみる。
もうちょっとだけ掘ってみる。
「……」
目が合った。
物凄く困っている目をしてる。
でも黙ったまま。

目から下は地面に埋まってる。
花も見えないし、口も見えない。
でも、何で埋まってるんだろう。
不思議。

どうして息をしないでも大丈夫なんだろう。
植物の魔物だから?
額を突付く。
物凄く困っている目をしてる。
花を噛んでみる。
「〜〜〜〜!」
甘い。

ひとしきり埋まっている魔物で遊んだ後、土を埋めなおした。
葉っぱと花はきっと薬草だと思う。
次に見かけたら、今度は下から掘ってみよう。
根っこはどんな形かな。

少年は不思議な植物を見つけていた。
むしろ、不思議な植物に見つかっていた。
どちらかと言えば、不思議な植物に捕まっていた。
一言で言えば、魔物に捕まっていた。

「わぁあ〜〜〜! は〜な〜し〜て〜!」
「あら、いいじゃない。嫌よ嫌よも好きのうちって言うでしょ?」
「なんだよそれ〜! は〜な〜し〜て〜!」

少年は魔物に捕まっていた。
花の魔物みたい。
花の中心に本体というか、魔物がいる。
魔物の足元から花の蜜が溢れている。
そして少年が蜜塗れ。

「ほ〜らほらほら。きいてきたでしょ〜。ほれ、ここはどうなってるかな?」
「ひゃああああっ」
魔物が少年に抱きつくと、少年は顔を真っ赤にして暴れだす。

「僕ちゃん、かわいいね〜。食べちゃいたいくらい。むしろ食べちゃう?」
「た〜べ〜な〜い〜で〜!」
「ほんとかわいい。ぺろっ」
「ひゃうっ」
魔物が少年の頬を舐める。
味見かな。

でも少年を食べられるのは困る。
少年はおもしろい。
今日も見ていて飽きない。
放っておくと、面白いことをしてる。

「あら〜、お嬢ちゃんは、この子の友達?」
友達。
なんだろう、それ。
「あ、君! たすけて〜!」
首をかしげる。

ドラゴンに比べると花瓶に飾るくらいの弱さの魔物に負ける少年。
そういえばスライムにも負けていたし、兎にも負けていた。
本当に少年はドラゴン退治が出来るのか。
じゃあ何で、クエストを受けたのか。
ふしぎ不思議。

「何もしないならこのまま食べちゃうわよ〜」
「わ〜、何でもいいから何とかして〜〜!」
「こっちの方のお味は〜」
花の魔物に近付く。
そして、葉っぱを千切る。

「いたっ。ちょっと、何をするのよ。葉っぱは私の一部なんだからね」
葉っぱを千切る。
「いたた。髪を引っ張られたら痛いでしょ? ちょうどあんな感じの」
葉っぱを千切る。
「いたいって言ってるでしょ! いいかげん、怒るわよ」

葉っぱを千切る。
葉っぱを千切る。
葉っぱを千切る。
「いたたた、ちょ、やめ、やめてって〜!」

葉っぱを千切る。
葉っぱを千切る。
葉っぱを千切る。

葉っぱを千切る。
葉っぱを千切る。
葉っぱを千切る。

「うぅ。酷い目に合った」
「それはわたしの科白よ〜」
少年と魔物がぐったりとしている。
私は少年に集めた葉っぱを見せる。

「え、なに?」

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