スライムが現れた。
少年は驚き戸惑っている。
スライムの攻撃。
少年は押し倒された。
スライムの攻撃。
少年は変な声を上げた。
「ちょ、ちょっとぉ。黙ってみてないで、なんとかしてぇ〜」
少年は助けを求めた。
しかし、何も起きなかった。
旅が始まってから驚く事があった。
少年は弱かった。
とても弱かった。
スライムにやられる位弱かった。
ドラゴンを倒すのは何百年後の話だろう。
少年の服を脱がしに掛かったスライムを引き剥がしながら思う。
ゼロを足すべきか否か。
顔を真っ赤にしている少年が面白いので、スライムを投げつけた。
「君ってさ。とても強いよね。鎧も剣も盾も何にもないのに、魔物に勝つんだもん」
遊びつかれたスライムを見送ると、少年が座り込んだ。
どうやらこちらも疲れたらしい。
これではドラゴンの巣にたどり着くだけでも何年掛かるか。
退屈しのぎに困らないのはいいことだ。
「ちょっと休憩しようよ。スライムと戦って疲れちゃった」
スライムとのじゃれあいの事を戦闘というらしい。
ドラゴンとじゃれあったら、どうなるのだろう。
試してみたい気持ちが沸きあがる。
試そうか。
「う。な、なに? 何だか目が怖いんだけど」
座ったまま移動する少年。
ラミアみたいだ。
一歩進むと一歩下がる。
2歩進むと2歩下がる。
「ちょ、ちょっと、え、なに?」
面白いので少しだけこれで遊ぶ事にする。
5分ほどで少年が倒れこんだ。
頬を引っ張ってもぐったりとしている。
放っておくと夜までこの調子みたい。
仕方が無いので肩に担いで次の村を目指す。
気づいた時には夜で。
気づいた時には森の中。
フクロウの鳴き声は狩りの準備。
木の根に隠れるネズミたちに混じって、なぜかラージマウスの匂いもある。
「薪を集めるの、手伝って欲しかったよぉ」
少年は細い枝を火の中に入れる。
腰掛けているのは倒れたばかりの木の幹。
少年の発想は面白い。
夜の明かりに木を倒したのに、今は椅子として使っている。
「君って旅の経験があるんだね。兎を3匹も捕まえるなんて」
兎の数え方は1羽2羽。
1羽といえば、フクロウに混ざってハーピーが木に腰掛けている。
普通のハーピーは夜目が聞かない鳥目。
夜は寝ている。
あのハーピーはきっと、フクロウに似た目を持っている。
夜はネズミを狩る時間。
「はい、焼けたよ。どうぞ」
兎肉を受け取る。
ガサリと背後の藪の中からスライムが出てきた。
「こんばんわ〜」
「うわぁっ! す、すらいむだっ」
慌てて剣を抜こうとして、後ろ向けに倒れる少年。
その少年に覆いかぶさるスライム。
「えへへ〜。ごはんだ〜」
「や、やめて〜! たべないで〜!」
肉は焼くと美味しくなる。
本当は自分の火で焼きたいけど、調節が難しい。
薪を焼くつもりが、森を焼いてしまう。
それに今は人間の振りをしている。
火を噴いてはいけない。
「ほーら、脱ぎ脱ぎしようね〜♪」
「や、やめ、やめて〜!」
火のついた小枝を拾って、投げる。
「あつい〜!」
スライムが逃げた。
「くぅ。くぅ」
少年は遊びつかれて寝ている。
「すー。すー」
スライムは少年に抱きついて寝ている。
木々の向こうでは体をべとべとにしたラージマウスが仰向けに寝転がっている。
満足そうに笑っているハーピーが木の上で寝ている。
ドラゴン退治の旅は遠い。
私は少年とスライムの隣に座って、目を閉じた。
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