「ドラゴン退治のクエストが出ているんだって?」
いつもの様に。
銅貨を使い潰すように酒を飲んでいると。
面白そうな話が聞こえてきた。
「今回はリザードマンの巣ってオチじゃないらしいぞ」
「ドラゴンの巣は遠いらしい」
「道中にはゴブリンの盗賊団も出るらしい」
ドラゴンの話はあちこちに飛び回る。
飛び回る。
でも、誰も受けようとしない。
詰まらない。
興味を失って酒を飲もうとするも、ジョッキが空になっていた。
詰まらない。
空のジョッキでテーブルを叩いて追加を催促する。
「ねぇ、いっしょにどう?」
「やなこった」
「じゃあそこの人は?」
「他を当たれ」
「えっと。そこのお兄さんは」
「帰れ。とっととママのおっぱいでも飲んでいろ」
追加の酒がまだ来ない。
ジョッキでテーブルを叩く。
「ねぇ、そこの君。いっしょにどう?」
幾ら叩いても追加は来ない。
テーブルが割れるまで叩こうか。
ジョッキが割れるまで叩こうか。
どっちが先に割れるか賭けでもしようか。
「ねぇ。ねえったら」
酒は来ない。
詰まらない。
もう今日はやめにして宿に帰ろう。
「うわっ!?」
ん?
いま、変な声が聞こえた。
「いきなり立ち上がるんだから、びっくりしたよ」
誰に言っているのか。
返事が無いと言う事は、酔っ払い相手に話しかけているのか。
この誰かさんは。
「あ、ちょっと。待って。待ってったら」
外の風が涼しい。
喧騒を背中に聞きながら見上げる星空は、いい眠気覚ましになる。
これから寝るのに眠気覚まし。
少しだけ、おもしろい。
「ねぇ。君!」
いい気分に浸っていると、邪魔が入った。
「あ、やっと気づいてくれた」
睨んだ先には誰もいない。
違った。
見上げた視線を下ろすと、子供がいた。
「ねぇ、君。いっしょにどう?」
首をかしげる。
何が、どう?
ヒントを探して少年を見ると、少年が何かを持っている事に気づいた。
酒場の掲示板に貼り付けられている、クエストの依頼内容を記載した羊皮紙だ。
依頼内容:ドラゴンの討伐又は撃退
依頼者:デーリング
首をかしげる。
「あれ、文字が読めないの?」
違うと答えて、詳細を読む。
依頼内容詳細
・ドラゴンが町の近くにある山に住み着いた。今はまだ被害が出ていないが、ドラゴンに襲われるかと思うと気が気でない。報酬は町の住民全員から集めて払うし、ドラゴンが貯めている財宝も全て持っていっていい。早くドラゴンを何とかしてくれ!
「ドラゴン退治なんだ。ドラゴン何だよっ。君も一緒に行かない?」
勢いこむ少年の頭を撫でる。
「う、うわっ。え、なに、なに?」
慌てる少年の頭を撫でる。
「え、なんで頭を撫でてるの?」
頭を撫でて満足したので、宿に戻る。
「ちょ、ちょっと待って!」
手を掴まれた。
後ろを見ると少年が私の手を握っていた。
「君だけが頼りなんだよっ。他の人に頼んだけど、誰も相手にしてくれなくて」
それは当然。
ショートソードも似合わない少年にドラゴンを倒せるわけがない。
ゴブリン相手でも勝てそうに無い少年に誰が期待する。
誰も期待しない。
「それはわかっているんだけど。でも、でも!」
「おいおい。クソガキはとっとと帰れって言わなかったっけ? 俺、言ったよな?」
「おねがい! 僕と一緒に、ドラゴン退治に行こうよっ」
「うぜぇ! このくそがき!」
少年は蹴り飛ばされた。
酔っ払い相手に勝てない少年にドラゴンを倒せるはずがない。
倒れた少年が震えながら立ち上がる。
酒場の喧騒は遠く、空の星も遠い。
夜は睡魔の時間。
立ち上がった少年を見てから、宿に戻る。
少年が蹴り飛ばされる音が聞こえた。
酔っ払いが何かを言っている。
少年が何かを言っている。
少年は同じ言葉を口にする。
ドラゴンを倒そう。
一緒に行こう。
その声も少しずつ小さくなる。
酔っ払いの声だけが大きい。
「僕は、やっぱり何も出来ないのかな」
少年は立ち上がろうとして、また蹴られた。
少し興味が沸いた。
少年を突き動かす物の正体が気になった。
「ん? なんだ、嬢ちゃん。俺は忙しいんだからあっちへ行け」
お前が邪魔だ。
火でも吹いて焼こうか。
尻尾で殴り飛ばそうか。
掴んで高い所から落とそうか。
幾らか候補を考えて、そういえば人の振りをしていた事を思い出す。
「何だぁ? 俺を殴る気かぁ? は、こんな小さなガキ相手に俺を殴り飛ばせるはずぐはぁああっ!!」
酔っ払いを殴り飛ばした。
ショートソードを杖代わりに立つ少年が瞬きをしている。
「君って、強いんだね。僕と同じ位なのに」
少年を掴んで宿に戻る。
「うわ、ちょっと、ひっぱらないで、いた、いたたたた」
翌朝、二人分の宿賃を払って宿を出る。
隣を見ると、青アザ塗れの少年が笑っている
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