マンドラゴラってのは数ある薬草の中でも一際強い魔力を持つが、最近って言うか魔物が女になって以来は的中率10割で魔物が引っこ抜かれるという。
マンドラゴラは引き抜けば死を齎す鳴き声をあげると昔は言われていたらしい。
そして、ここ。
この山は、入って帰ってこなければマンドラゴラを抜いたのだろうと言われている。
それくらいマンドラゴラの多い山として知られており、今でもマンドラゴラが多いといわれている。
「一攫千金ならこの山に決まってるだろう! 俺はこう見えてやる時はやる男だぜ」
決して借金取りから逃げて最後の頼みの綱としてこの山に来たわけじゃあない。
「待ってろよ、マンドラゴラぁ!」
しかし俺は知らなかった。
マンドラゴラの居る山は危険が一杯だった。
「おそえー」
「おそうのだー」
「何でおおなめくじの大軍が!?」
ぬめぬめとやってくるおおなめくじから逃げたり。
「たーべちゃうぞぉ?」
「またおおなめくじか」
ばぁーと脅かすように手を動かすおおなめくじから逃げたり。
「たすけて〜!」
「あそぼー、あそぼー」
「・・・・・・」
ラミアに絡み付いているおおなめくじから逃げたり。
「ていうか、おおなめくじ多すぎだろう!」
なんでマンドラゴラが出てこないんだ。
「ちくしょう、このままじゃおおなめくじに捕まって、というかまたかよ!」
ぬめぬめのおおなめくじがまた現れたので逃げる。
「ちくしょう。ここはおおなめくじの山かよ!」
「そういうわけじゃないんだけどねー」
「どういうわけなんだよってうわ!?」
木陰で一休みしていると真上から声が聞こえた。
見上げると枝に腰掛けているハーピーが居た。
「ああ、気にしないで。襲う気はないから」
「マジか?」
「ん、今のところはね。ああ、逃げなくていいって」
「おまえ襲う気満々じゃねえか」
「違うっての。聞きなさい」
ハーピーに肩を鷲掴み(あの鳥の足で文字通り)されてしまう。
「ここいらにおおなめくじが多いのは見てきたでしょう」
「ああ。いやっていうほど見てきた」
「マンドラゴラの声はね、聞くと誰彼構わず発情するのよ。で、ああなったってわけ」
「で、あんたはその声待ちか?」
「んーん。疲れたから休んでるだけだよ」
ほら、と肩から提げている鞄を見せる。
鞄には丸めた紙が幾つも入っている。
「新聞だよ」
「なんだそりゃ」
「さてと。十分休んだし。それじゃ、またね」
バサリと翼をはためかせてハーピーが飛んでいった。
「なるほどなぁ」
この山は元々マンドラゴラが多くて、おおなめくじも多くて、マンドラゴラを抜いた時の声でおおなめくじも発情して、襲って、たくさん増えたと。
「1年位前に大勢で山に入ったって言うし、それか」
それはともかく、マンドラゴラを早く抜かないとまたおおなめくじに襲われてしまう。
「よし、さっそくこれを抜いてみるぜ!」
勘でそれっぽい花を掴み、ひっこぬく。
「ッぴゃぁあああああああ、ぴゃうっ!」
「うわぁあああ!?」
いきなり大当たりした、と思ったら想像以上に景気よくひっこ抜けた、と思ったら抜いたマンドラゴラが手からすっぽ抜けた。
ついでにゴンとか鈍い音が後ろから聞こえた。
「……あらー」
振り向けば頭を抑えたまま目を白黒させている緑の少女が蹲っていた。
「あぅあぅ〜」
「そうなくなよ。泣きたいのは俺のほうだ」
一回目であたりを引いたのは幸運だったが、幸運はそこで尽きてしまったらしい。
マンドラゴラを抱えて声につられてやってきたおおなめくじの群れから何とか逃げ延びる事は出来たが、困った事にもう一回山に登る気力はないし、おまけにひっこぬいたマンドラゴラは子供だしと言う事なしだ。
「大人のマンドラゴラなら根っこも沢山あるってのに、子供じゃあな」
「あぅ〜」
「あぅあぅうるさい」
「あぅっ」
デコピンをして黙らせる。
第一、これは幾らなんでも小さすぎるだろう。
俺の腰くらいの高さまであるならまだしも、背丈が腰に届いていないって、おい。
「あぅ〜」
「あー、もう、泣くなって」
細い緑の葉と蔓の髪をくしゃくしゃに撫でてやる。
「あぅ〜♪」
頭を撫でると途端に笑い出す。
子供と山の天気は変わりやすいってのは本当だな。
「にしても。ガキだから、胸もぺったんだな」
「あぅ〜!」
「いたいいたい、叩くなって、あ、こら、蔓を巻きつけるな」
マンドラゴラの根は強力な媚薬になるってぇ話だが、こいつの場合は人間の指程度しか生えていないからとるところがないから無理だって医者がさじを投げやがった。
頭に来たから先にとっておいた根っこをそいつの口に押し込んで逃げた。
「やれやれ。仕事、なんか探すかなぁ」
「その前に借金を返しな」
「げ、もう追いついてきたのか」
つるっぱげの借金取りがボキボキと手の骨
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