春先の雨は激しく、梅雨に入れば霧の様に細かい雨となる。
この季節になると室内に篭るより番傘片手に出歩く方がよほど涼しいもので、私は草履を引っ掛けて近所の川原へ散策するのが最近の日課となっていた。
決して道場での稽古を嫌っているわけではない。
「第一、此度の稽古には西からの剣豪が来るというではないか。勝てるはずもなかろう」
聞くところによれば、河童どことなく似ている妖怪が私の通う道場に足を運ぶのだという。
ジパングでは見かけぬ鎧を身につけ、両刃の大刀を振り回すのだと。
妖怪の腕力でその様な物を叩きつけられれば、細身の脇差など一太刀で叩き折られてしまうに違いない。
「桑原桑原、っと。言う先からこれか」
おっかなさに口からついて出た言葉がきっかけか、遠雷の音が聞こえた。
「そろそろ観念して道場へ向かうか。いかに妖怪の剣と言えど、雷に打たれるに比べれば優しいに違いない」
自らに言い聞かせ足を道場へ向ける、その前に私の視界に人影が映った。
目を凝らす。
霧の様に細かい雨が降る中、傘も差さずに川原に腰掛ける若い女性が居た。
「何をして居るのだ」
雨に濡れ滑る草の斜面を駆け下りる。
朱で染めた寝巻き姿の女性は私の姿に気づくと、雨に濡れながら顔を上げる。
艶やかな黒髪が雨に濡れ、なんとも言えぬ色香を生み出している。
「ぬっ、い、いや、すまぬ!」
しかし何と言っても、雨に濡れた薄衣がぺたりと肌に張り付き、なまめかしい肢体がくっきりと見えてしまっている。
雨に濡れていてもまだ暑いのか、肌蹴た衣から柔らかな双球やほっそりとした白い脚が見えてしまう。
「ささ、ここに居ては風邪を引く。近くに道場がある。まずは濡れた体を何とかせねばな」
私が手を差し出すと女性は花が咲くように微笑んだ。
雨に濡れたその笑みにどきりとするも、濡れた女性を放置するわけにも行かず女性の手を引く。
「む、相当冷えておられる。さ、急ごうではないか」
言葉の代わりに頷いた女性の手を引き、私は急ぎ道場へと向かった。
「やれやれ。仲間には随分と冷やかされてしまった」
私が女性とはとんと縁のない生活を送っていたがゆえ、濡れた女性を連れてきた私を道場の皆はからかってきた。
気恥ずかしさから私は女性を連れてその足で道場の裏にある我が家へと招き入れる。
「そこで待っておれ。今すぐ手ぬぐいを用意する」
傘を畳み水気を落とす。
トンと傘の先端で地面を叩き、傘篭に濡れたままの傘を差し入れる。
「そうだな。まずは熱い茶を、ぬぅ!?」
草履を脱ぎ家に上がろうとして、不意に冷たい何かが体に触れた。
「む、う。濡れたまま抱きつかれては困る、いや、そもそも私と貴女は出会ったばかりで」
唐突な抱擁に戸惑い、思いも寄らぬひやりとした冷たさに腰を抜かしてしまう。
ぴちゃりと冷たい手が私の着物の隙間から入り込み直接胸に触れる。
「ん、む?」
触れられて気づいたが、女性から滴るは水ではない。
不快ではないが、どこか人間とは異なる質感。
「ふむ。ヌシは妖怪なのか」
はいと答える代わりに女性、いや女妖はうなずく。
「うむぅ。では身を案じた私はマヌケだったと言う事か」
河童の風邪を心配する事の無意味さと同じく、恐らくこの女妖も水を好む類の妖怪であろう。
己の深くを恥じ入る間も濡れた女妖は私の衣を脱がせ体を重ねてゆく。
愛しき夫にするかのような接吻を幾度となく交わし、体温を欲しがるように体を重ね、そして体を浮かせて私の一物を女陰に咥え込む。
声を出す事を恥じ口を閉じるも、元より女妖の熱烈な接吻にて私の口はふさがれている。
「ん、くっ」
女性と床を共にする経験などなく、浅ましく私は女妖の中に果ててしまう。
「ふぅ。済まぬな、私は経験が浅く、ぬぅ!?」
謝罪を口にする私の事など見ておらぬのか、女妖は再び腰を動かしだす。
私の胸に頭を添え、ゆるりゆるりと動く。
良き妻は夫に献身するものであると頭硬き翁たちは口にするが、この女妖はまさに献身を形にしたが如きであり、私は次第にこの女妖に気が引かれてゆく。
愛しさから女妖の肩を抱く。
女妖は一度顔を上げ、嬉しそうに笑みを浮かべる。
やはり言葉は発しないが、それでも気持ちが通じた。
「では、私も動くぞ」
ご存分に。
そう答える代わりに女妖は私に身を委ねた。
雨の日は散策する事が日課となっている。
右の腕には濡れた妻が寄り添い、左の手には幼き濡れた娘がぎゅうと掴む。
私の妻は言葉を発しないが家事もそつなくこなし、実に献身的に私に尽くしてくれている。
不満だとありはしない。
雨の日の散歩も愛しき妻と娘と共にならば楽しくもある。
ただ、難点が二つある。
一つは洗濯物を取り込み仕舞い込むのは必ず私
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