むかしむかし、あるところに若い娘がおりました。
娘は気立てもよく物静かなので、村の若者達からとても人気がありました。
ところが、この娘には一つだけ苦手な事がありました。
誰かに話しかけることが苦手なのです。
娘は頭に頭巾を被りいつも俯いていて、若い男の人が近付くと早足に立ち去ってしまうのです。
そう、娘は少々、恥ずかしがり屋なのです。
「うぅ。今日もお買い物なのですか」
「そうよ。頼めるわよね?」
二人の若い娘が話をしている。
一人はすらりと背が高く、伸ばした背筋と顔つきは少し生真面目でとっつきにくそうな印象を与えている。
もう一人は顔立ちに愛嬌があり大人しそうな娘で、リスや兎といった小動物的な印象を与える。
二人は姉妹。
美人で性格がきついと評判な姉のリアと可愛らしくて大人しい妹のミリィ。
二人は背丈も性格もまるで違っている。
似ているのは母親譲りの燃える様に赤い髪の色くらいだと、村の若者達は口を揃える。
そしてその度にリアに殴られる。
リアは自分が正しいと思っていることは迷いなく実行する。
ミリィはいつも姉の様になりたいと思いつつも、自分にはできっこないと半分諦めている。
「あんた、昨日は全然外に出ていないでしょう。もっと外に出なさい。いいわね」
見下ろす様にしてミリィの額に人差し指を当てるリア。
姉の厳しい視線に負けて、ミリィはすごすごと出かける準備をする。
「まったく。あの子ったら」
顔が見えないように目深にフードを被り、俯きながら外へと出て行くミリィ。
その背中を見送り、リアは深くため息をついた。
「お、今日はあの子が買い物かぁ!」
「おっし、今日はいいことあるぞぉ!」
ミリィは興奮した若者達の声に耳を塞ぎたい思いでいっぱいになる。
俯いたまま小走りでお店の前まで向かい、パンを買ってすぐさま帰る。
その間もずっと村の若者達の注目を集めてしまっていた。
なおのこと俯きながら走っていたミリィは、曲がり角から現れた誰かにぶつかってしまった。
「きゃ、ごめんなさ……?」
ぶつかってしりもちをついてしまったミリィは、ぶつかった時の感触が不思議で謝罪の言葉が途切れてしまう。
「いいっていいって。あたしも不注意だったしね」
ミリィは、差し出された手を見て戸惑いが驚きに変わる。
透明な紫色の手。
「えっと、魔物の人、ですか」
「あれ、そんなに珍しい? この村って魔物が多いみたいだけど」
彼女が言う通り、村にはたくさんの魔物が人と同じ様に過ごしている。
ゴブリンが露天を開いていれば、並ぶ品を眺めるのはワーウルフと人間の夫婦であったり。
ハーピーとブラックハーピーが郵便物や新聞の配達を競争していたり。
「はい。でも、貴女みたいなヒトは見たことがないです。見た所、スライムのようですけれど」
恥ずかしがり屋は男性に対して見せる事が多いミリィ。
しかしミリィは顔を赤らめて彼女から視線を反らしている。
スライム系に多い事だが、紫の彼女は服を全く着ていないのだ。
柔らかそうな体の起伏がぬるりとしたスライム独特の光沢と相まって、とてもえっちだ。
「スライムだよ、それであってる。あたしは、え〜っと、なんだったかにゃ」
顎に手をあて思案しながら髪の部分で腕組みする。
他の髪の房(の様な部分)は上手い具合に下半身を隠している。
「ブラック? 暗い……ああ、そうそう。ダークだ、ダークスライムだにゃ」
「ダークスライム、ですか」
「そうなんだ〜。魔界生まれのスライムはみんなあたしみたいなんだよ」
魔界。
あまりにも魔力が集まりすぎた土地は木も土も、吹く風さえ魔力がやどり魔物を生み出す。
「だからすっごくえっちなんだよ」
「〜〜〜!」
辞書的な内容を思い浮かべていると、ずぃとダークスライムが顔を近づける。
にぃと歪んだ笑みは嗜虐的で、そして同性から見てもぞくりとするほどえっちな表情。
本能的な危険を感じて下がろうとするも、腰に柔らかい何かが巻きついてそれを許さない。
「や、な、なにを」
「んふふ〜、なにをって言われてもねぇ」
髪の部分を伸ばしてミリィの腰を抱き寄せるダークスライム。
「ま、まちなかですよ、ここは」
「わかってるって。だから、ね?」
うんうんと頷いたダークスライムはミリィの手を繋いで歩き出す。
「〜〜っ」
にゅるりと気持ちのよい弾力に背が震える。
逃げようにも逃げられない、そんな諦めからミリィは大人しくダークスライムに着いて行く。
ダークスライム。
魔界の濃密な魔力により高い能力と知性を持ったスライムの仲間なのです。
スライム系は水に魔力が篭った様な魔物なので、取り込んだ魔力に性格が左右されるのですが。
ダークスライムの場合は並の魔物より
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