「何をのんびりしてるの。ほら、早く起きなさい!」
寝起き頭に怒鳴り声が響く。
目を擦りながら体を起こすと、胸の前で腕を組んでいる女の子が見下ろしていた。
髪の代わりに生えてる蛇たちがチロチロと舌を出して威嚇している。
「アンタのせいで朝ごはん食べそびれたらどうするのよ」
「一人で食べたら良いだろ」
「代金は誰が払うと思ってるの?」
「……はぁ」
「じゃ、早く着替えて降りてきなさいよ」
話はもうお終いと背を向けて、彼女はズリズリと部屋を出て行く。
「あー、はいはい」
念を押すように揺れた蛇に軽く手を振る。
閉じられたドア。こきりと首を鳴らす。
「いい加減に仕事を見つけてこないと、メイラに石にされちまいそうだ」
機嫌の悪い三白眼を思い出すと眠気を覚ます代わりに欠伸した。
今日もギルドの掲示板は張り紙で埋もれている。
小さな物は落し物探しや薬草採り。大きな物は遠征軍への参加や護衛。
酒場の喧騒を聞きながら仕事を物色する。
「フン。仕事のえり好みをしている立場じゃないでしょ?」
後ろやや上から声が降って来た。
確認するまでもなく、メドゥーサのメイラだ。
下半身と髪の先端が蛇になっている魔物で、見た者を石化させる能力を持つ。
まぁそれだけじゃないんだけどさ。
「私が貸したお金、何時になったら返してくれるのかしらね」
サラリと髪を撫でながら辛らつな言葉をぶつけてくるメイラ…お嬢様。
彼女の言うとおり、俺はメイラに借金をしている。
とある事情で俺は無一文になった挙句大怪我をしてしまい、そこを彼女に助けてもらったのだ。
後はご想像通りだが、借金を返すまでずっと彼女に付きまとわれるようになってしまった。
「借金を返すために仕事を探しているんだよ」
「頑張りなさいよ。なにせ借金は増えていくばかりなんだから」
ちなみに、宿代や食事代も全部彼女に出してもらっている。
多少仕事が見つかっても精々宿代程度しか稼げないので、借金が減らない。
このままずっと付きまとわれるのかと思うと気が滅入る。
「もういい加減諦めたらどう? 私の下僕になるなら、借金はチャラでいいのよ」
「いや、その選択肢はあり得ないだろ。あと、蛇を何とかしてくれ」
首に絡まってきた蛇の頭を突付く。
指の感触が気に入ったのか、蛇は自分から指の腹に頭をこすり付けてくる。
「蛇は私の意志で動かないんだから仕方ないのよ」
「あっそ。ああもう、この仕事で行くか」
掲示板から一枚の張り紙を手に取る。
「マスター。この依頼受けるぞ」
「ついでに酒でも飲んでいけ。ここをどこだと思っている」
「仕事の斡旋所。こちとら金欠なんだよ」
「しけた顔するな。蛇は金運のご利益があるっていうだろう?」
「ええ、そうよ。私のお金のお陰でアンタは生活できてるんだから、感謝しなさいよ」
「あぁあぁわかったから依頼を受託してくれ」
俺の催促に、ずぃと琥珀色のアルコールが入ったグラスが突き出された。
「金はねぇぞ」
「飲め。俺の奢りだ」
は?と疑問を浮かべた俺にマスターが顔に似合わない愛嬌たっぷりの笑みを浮かべる。
「俺の仕事は、酒を売る事じゃねえ。シケた顔を無くす事だ」
おまけとばかりに受託印が押された依頼書が渡される。
「ふ〜ん、気前がいいのね、おじさん」
「嬢ちゃんも一杯やるか?」
「いいわよ。私はちゃんとお金を払うけどね」
依頼内容は護衛。
依頼者はフラベル=アンドルリートという学者なんだそうだ。
「じゃ、行きますよ」
「あぁ」
「さっさと終わらせましょう」
目的は隣町までの護衛。
どうもこの学者さんは魔物の研究をしているんだが、異端として教会に追われているらしい。
教会相手に敵対するなんて正気の沙汰じゃないが、話によると最近の教会は表立って「異端狩り」をしていないんだとか。
だから襲い掛かってくるのは金で雇われた野党や盗賊連中で、撃退しても教会を敵に回すわけじゃないらしい。
「以前は魔物と一緒に歩いているだけで石を投げられた物ですよ」
「そうなんですか。以前って、どれくらい前なんですか」
「そうですね。100年以上前でしたか」
「うええ? えっと、マジで? でも、その」
「人魚の血でしょ」
俺の戸惑いを解決する声が聞こえた。
メイラだ。
「あはは、バレましたか」
「全く、人魚の血の事が知れたら神殿騎士が出てくるわよ」
「そこは注意してます」
ご安心を、と柔らかく笑うフラベル。
ちなみに女性だ。
「けど不思議ね。同じ延命するなら魔物になったほうが早いでしょうに」
「最終的にはそうなるでしょうけど。今はまだ教会が怖いもので」
「まるで蝙蝠ね」
「ワーバットに失礼ですよ」
何だろう。
メイラ、俺、フラベルの横並びで歩いているわけだが。
さ
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