ちょっとぐらいつまみ食いしてもいいでしょ、せんせー?

 月と星とが見守る深夜。
 砂漠の夜空は雲ひとつ無く満点の星空が月とともに浮かび続ける。
 着る服も無くシーツに横たわる二つの影。
 月明かりに浮かぶ片方は男性、もう片方は女性。
 恋人同士というより、長く連れ添った夫婦のように二人の間に穏やかな空気は流れる。
 その空気を破るように低い女性の声。
「やはり、考えた方が良いか」
 女性が尻尾をぱたりと揺らす。
 星明りに日に焼けた黒い肌と漆黒の獣耳が薄く照らされる。
「どういうことなんだい」
「イリスのことについてだ」
 娘の話を持ち出されてた彼は神妙な顔つきになる。
「君も気になっているだろう。あの子の事を」
「当然だろう。娘なんだ」
「ああ、だからこそ。手立てを考えなければいけない」
 この間の誘拐事件に対しての事かと訊ねるが、彼女は首を振る。
「それよりももっと深刻な問題だ」
「なんだ、そりゃ」
 声の質からただ事ではないと察し、彼は乾いた喉を潤すように唾を飲み込む。














「性教育だ」






…………。






「……おい」
「このままではいつ可愛いイリスがマミーに襲われるかわかった物ではない。しかも私の悪友まで手を出しかねないのだ。ここはやはり、私自らが手ほどきを、」
「ちょっと待て」
「ん、どうしたんだ。何を疲れた顔をしている」
 肘を立てて体を起こしていた彼が力なくシーツに沈んだ。
「何かと思えば、そんなことか」
「そんなこと、だと? 君はイリスが心配ではないのか!?」
「俺はてっきり命に関わる事かと思ったんだよ」
 そりゃイリスの貞操は心配だけどさ、と付け足すが声に力はない。
 夫に要らぬ心配をかけすぎたと知り彼女は夫に擦り寄る。
「すまない。君にそれほどの不安を抱かせてしまうとは」
「いや。それで、アヌビスって言うのは元々そういうことはするのか?」
「私は母から教わった事はないが。やはり、誰かが教えなければいけないのだろう」
 決意を込めて艶やかな毛皮に覆われている犬手を握り締める。
 しかし彼女の夫の反応は冷ややか。
「どうやって?」
「それは、だ。その」
「どうせ考えるべきだとか言いながらも大枠は出来てるんだろ」
 長い付き合いの彼は妻の性格を良く知っている。
 案の定、彼女はたどたどしくも計画を語りだす。
「ま、まずは、だ。男女の営みとはどのようなものかを、か、かかか観察する事を手始めに、女性はどのように感じるのか、または男性をどのように喜ばせるかを学ばせた上で、実技に」
「待て。3つ目までは何となくの流れでやっちまったような所はあるが、実技って何だよ」
「それは君に対する奉仕を以って」
「マテマテマテマテ。俺に娘とシろってのか!?」
 同じ家に住む娘を起こさないようにと声を殺しながらも、夫は悲鳴を上げる。
 だが、悲鳴を上げたのは彼だけではなかった。
「まさか君は、私を捨てて娘をとると? その可能性が、ある……と?」
「んなわけねぇからその心配だけはしなくていいぞ」
 瞬間で大粒の涙を溢れさせた妻を抱き寄せて優しくキスをする。
 甘く深いキスをすると彼女は強張らせた体の力を抜いて身を委ねていく。
「魔物なんてのはそーゆーのは教わらなくても自然に出来るもんだろ。お前の時だってそうだっただろうが」
「うん、うん、そうかもしれない」
「だから変な男にはついていくなよって言い含めるだけで……おい」
 キスをして素直になった、と思った矢先に柔らかい肉球が彼の大事な部分を摩りだした。
「不安でいっぱいなんだ。私を安心させて欲しい」
 夫は仕方ないなと笑う。
 彼の前では甘えたがりの妻が物欲しそうに目を細めている。
 妻の不安を溶かすべく、彼は熱いキスをした。



 その同じ家の別の部屋。
 ふかふかのベッドで丸くなる犬耳の少女が耳をピクピクと動かす。
「父様も母様も、本当に仲がいい」
 布団の中にしまいこんだ尻尾が狭い中をパタパタ忙しなく動く。
「ん、んんっ」
 もぞりと布団の下で体を動かす。
 切なげに寄せられた眉と漏れ出る甘い吐息。
 時折鼻を鳴らすのは、いったい何の匂いを嗅ぎ付けているのか。
「ん……っっ」
 ぷるぷる体を震わせると体の動きを止め、乱れた呼吸だけが室内に溢れる。
 疲労感と恍惚感を幼い顔に浮かべている。
 そして唐突にピクンと耳を動かす。
「あ、母様もイッちゃった」
 イリスは夢見るように力のない声で呟いた。



 子供たちが集う学び舎。
 砂漠の町に似合わぬ服装の男性が教壇に立っている。
 勉強を教えている途中だが、彼の様子がおかしい。
 なぜなら生徒達に向き直らずに警戒態勢をとっているからだ。
「先生ー、授業はー?」
 冷やかす子供たちの声にも反応できない。
 子供たちはこの後どうなるかがよくわかってい
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