この砂の町に滞在してからはや1週間が過ぎた。
長い冒険者生活をしてきた私たちは言ってみれば流浪の旅人。
見知らぬ町に訪れて情報を収集し、そして去っていく。
だから今回のように同じ町に1週間滞在するのは珍しい。
それでも旅人としての経験から、短期間で町の順応する事ができる。
1週間もあればこの変わった町にも慣れてくる。
しかし、しかしである。
「野外で襲われる事に関しては、慣れたくは無いですね」
「つれない事を言わないで? ハンサムさん」
「私は外向的で精に対し奔放な人間では無いですから」
照りつける太陽。
砂漠地域によくある街並みを楽しむ間もなく、私は走り続けている。
硬い土壁の建物、整地された砂の道路。
寝転がっている人たちに足を引っ掛けないように注意しながら、T字路を右に曲がる。
どうしてこうも必死に走っているかといえばだ。
浅黒い肌の女性が追いかけてくるのだ。
どうして女性から逃げているのかと言えば、彼女はちょっと普通の女性では無いから。
肌の露出の多い服装、と言って良いのか。
彼女の身につけているものといえば全身に白く幅の狭い布、いや包帯を巻きつけているだけ。
入院患者が病院から脱走したような姿なんだ。
ちなみに、詳しく確認していないけど下着は全く身につけていない。
彼女達はそういうものなんだ。
下手に下着姿で居るよりも刺激的な彼女がなぜ野外にも拘らずそんな格好で居るのか。
そして何故追ってくるのか。
それはこの町の特徴だとしか言いようが無い。
ちなみに彼女に追いつかれるとどうなるか。
怪我はしないと思う。
殺されることもたぶんない。
ただちょっと、刺激的なコミュニケーションをとる事になる。
「大丈夫だって。嫌なのは最初だけ。すぐ、恥ずかしいのも良いもんだって思うようになるよ」
「ごめんこうむります」
「折角立派な物持っているのにさ」
「くぅっっ!!」
羞恥に顔が熱くなる。
追いつかれるとどうなるかと言えば、答えはそこらに転がっている。
いい加減見飽きた、男女の営みごと。
この町では当たり前の光景で、そこかしこで裸同然の男女が絡み合っている。
絡み合う女性達に共通していることだが、彼女達は包帯しか身につけていない。
その理由を聞こうにも、私は逃げるのに精一杯で質問も出来ない。
「いいじゃないか。たっぷりとサービスするよ?」
「他を当たってください!」
私は彼女を嫌っているわけではないが、野外で、しかも人目にさらされながら交わる性癖は持っていない。
冒険者として長年培ってきた体力があればまだ逃げられると思うのだが、そう甘くは無い。
いずれは捕まって、口ではいえないようなことを。
「しまった、袋小路か!?」
「へへー。もう逃げられないよ?」
されてしまうのだ。
数人がゆったりと過ごせる宿の一室。
砂漠町特有の硬い土壁と土床。
そして木製の丸テーブルと椅子数脚にベッドが2組。
私たち4人はそれぞれ椅子やベッドに腰掛けてひと時の休息をとっている。
理由も鳴く空を眺めていると視線を感じた。
顔に疲労の色を残す若い男の仲間、リードだ。
彼はガラス板の無い窓枠にもたれかかって気だるそうにしている。
「いよぉ、バード。今日は何回だ?」
「合計すれば7回。使った薬は3本分」
「使いすぎだろう。俺なんて10回だぞ?」
「いや。さすがに7回も捕まれば枯れてしまうよ」
「……ヤッた回数は?」
「聞くな。数えたくも無い」
私とリードは本日何度目かのため息をつく。
そこへ後ろから冷ややかな少女の声が聞こえてくる。
私のパーティのリーダー、ケイトの声だ。
「止めてくれる、そのため息。部屋が湿っぽくなるわよ」
「カラカラ乾いた暑さが和らぐって事にしてくれ」
「なら、ウェットの聞いたジョークでも言いましょうか?」
今度は幾分年上の女性の声。
レイチェルだ。
ちらりと視線を向けると、何時も通り退屈そうに目を細めている。
ベッドに足を組んで腰掛ける姿は、ショートパンツから見える太ももが実に扇情的で目の毒だ。
リーダーのケイトが直感で行動するのに対し、レイチェルは計算で行動する。
いつでも沈着冷静な物腰なので彼女がパーティのリーダーなんじゃないかと思うときがある。
「おいおい、マジかよ」
ジョーク、という言葉に反応したリードがげんなりと彼女を振り返る。
レイチェルの眉がぴくりと動く。
「……どういう意味?」
「勘弁してくれ。レイチェルのジョークは涼しくなりすぎるんだ」
「いいじゃないか。ジョークの一つもいえない私よりはずっとマシだよ」
口論が白熱する、そう感じてすぐさま私が間に入る。
ノインが不調で動けない分、私が仲裁しなければいけない。
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