027.今日は何の日?

「一体どうしたというのですか? レスカティエから戻ってきてから、ずっと様子が変ですよ」
隊長さんが不思議そうにしている。
首をかしげる。
「いえ。珍しく魔物としての姿でいらっしゃいますので」
首をかしげる。
ああ、戻しとこう。
「もう一度お尋ねします。一体、何があったのですか」
何にもない。
それよりご飯。
「食事の前に質問にお答えください」
ごはん。
ごーはーん。
「返答が先です」
むー。
むー。
「駄目です」

とりあえず、遊んだりしたことを伝えた。
話を聞き終わった隊長さんは、すごく疲れた顔をしている。
「勇者たちとの模擬戦に、『あの』デルエラ様との一騎打ち。貴女はいったい何をしているのですか」
魔界豚もおいしいけど、やっぱり魔界デザートもおいしい。
魔力が籠っているほうが良いのかな。
「聞いていますか?」
聞いてる。
隊長さんも食べる?
「後で食べます。それにしても」
隊長さんが言葉を区切る。
「どうして貴女は、そうまでして戦いを望むのですか? ドラゴンだからですか?」
スプーンを置く。
なんだか、隊長さんが真剣。
どうして?
「私はデュラハン。アンデッドの魔物です。つまり、元人間なのですよ」
そうなんだ。
それで?
「元から魔物であった方々とは見方が違うという事です」
首をかしげる。
「貴女は何か、誰にもまねのできない無理難題に挑もうとしているように見えます。そのせいで、周りが見えていない」

首をかしげる。
無理でも何でもやらなきゃいけないことってあると思う。
「相談していただければ」
無理。
「……理由を教えて頂けますか?」
弱いから。
そう言うと、隊長さんは辛そうな顔をした。
「しかし、一人では限界があります」
限界って?
「料理を作れますか? 武具を作れますか? 貴女一人ではできないことも、多く集まることで出来るのです」
だから皆呼んでる。
「戦闘では、不要だと?」
頷く。
みんな弱いから。
「デルエラ様も不要だと仰りますか?」
でるえらは強かったけど、んー、わかんない。
本気じゃなかったから。
それに、でるえらは一緒に戦わない。
「どうして分かるのですか?」

でるえらは、でるえらのやり方で戦ってるから。
他の人たちから離れた位置で眺めながら、いつでも笑ってる。
笑いながら次はどうしようか悩んでる。
えっちで一杯の平和な世界を作りたいのに、平和に浸るのを怖がってる。
「怖がっている? 一体、何を。貴女は、何を知っているのですか?」
知っている人から話を聞いた。
だから、頑張ってる。
「何を知っているというのですか?」
立ち上がって歩き出す。
追いかけてくる隊長さんの足音を聞きながら。


辿り着いたのは巣の屋上。
空がよく見える。
後ろを向くと隊長さんが身構えてる。
何時でも剣を抜けるように。
「今から何を始めるのですか?」
人化けを解く。
そして告げる。
知りたいことがあるなら、示したらいい。
困難に立ち向かえる実力があることを。

隊長さんは強い。
剣を振るたびに紫色の光が強くなって、雷みたいにバチってなる。
ドラゴンより力が弱いのに、ドラゴンみたいに一撃が重い。
動きは速いし、剣術も使う。
普通のドラゴンならやられちゃってる。
ブレスを吹いても、ブレスを切っちゃうし。
爪を叩きつけても弾かれるし。
硬い鱗も切り裂く。
普通のドラゴン相手なら。
「まったくの無傷、ですか」
隊長さん、悔しそう。
でも仕方ない。
隊長さんは弱いから。
「本当に、今日はどうしたのですか」
隊長さんはちょっと驚いているみたい。
不思議ふしぎ。

「貴女は今まで、強さを誇ることも他者を貶めることも無かった」
そうだったかな。
あんまり覚えてない。
「今日は、何があったのですか。話して下さったこと以外に」
特に。
それで、もう終わり?
「……いえ。まだです!」
隊長さんの剣がまぶしくなる。
魔力をもっと沢山込めているみたい。
でも、私の鱗には通じない。
防御しなくてもいい。
延々と振り下ろされる剣を眺めるだけ。

やがて隊長さんは息を切らせて、動けなくなった。
座るのが嫌みたいで、剣を杖みたいにして体を支えている。
「まだ、です」
諦めていない隊長さんに近づく。
隊長さんの心は折れていない。
不思議ふしぎ。
ただの一度も攻撃が通っていないのに、まだやる気だなんて。
「貴女が、求める実力とは。どれ程なのですか」
んー。
でるえら位?
そう答えたら、隊長さんは少しだけ笑った。
「貴女は世界を支配する気ですか」
瞬きをする。
支配なんてしない。
逆だから。
「逆?」
支配させないために力がいる。
「まさか。魔王様と敵対するというのですか?」
首を振る。
隊長さんの傍に腰を下ろして、空を見上げる。
そろそろ日が沈む。
茜色の空は、なんだか
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