でるえらは速い。
剣を振っても当たらない。
でるえらは守りが硬い。
木を投げても岩を投げてもピンク色の壁で防がれる。
でるえらは余裕そう。
なんだか腹が立つ。
「貴女はどうして闘うのかしら」
何に対して?
聞いても、でるえらは笑うだけ。
何でも知っているみたいな顔をしてる。
むー。
当たんない。
でるえらは変な剣を持って飛び回っている。
攻撃してこない。
だけどこっちの攻撃は届かない。
届かない。
何でだろ。
「お父様から色々と教えて頂いたお蔭、と言っておくわ」
えっち意外に教えてもらったんだ。
「色事関連は『いろいろ』あるのよ」
でるえらが少しだけ笑う。
親子の仲はいいのかな。
聞いても、でるえらは笑うだけ。
よくわかんない。
「貴女も剣術に覚えがあるのではないかしら?」
父様と遊んだときは、武器使ってなかった。
すぐ壊れるから。
「力加減は大事よ? 力も入れ方もね」
頑張ったけどダメだった。
だから巣にいた頃は武器は使わなかった。
「あら、もったいない。ドラゴンと渡り合える人の剣術なのに」
父様もあまり剣の扱いは得意じゃないって言ってた。
「……あらあら」
でるえらが、少しだけ目を細くした。
「勇者とは何かしら」
でるえらが剣を振り下ろしてきた。
大剣で受ける。
勇者は、神の加護を得た英雄のこと。
でるえらの剣を弾いて答える。
「そうね。勇気あるものが勇者と呼ばれるはずなのに。おかしなものね」
ふしぎ不思議。
「勇者と呼ばれる人物には様々なタイプがあるわよ。加護を受けた者。勇敢なる者。才能高い人物も勇者に数えられることだってあるわ」
それがどうかした?
「貴女は勇者の真似事をするといったけれど。何があるのかしら?」
父様は勇敢だった。
だから私は勇者の子供。
「ふふ。それなら私も勇者になるのかしら?」
その前に魔王の子供だと思うけど。
魔物だから。
「貴方も同じでしょ?」
今はひとの姿をしているから人間。
「ふふ。ユニークな発想ね」
でるえらは、強い。
でも、倒せない相手じゃない。
大剣を振り下ろす。
当たらない。
振り回す。
当たらない。
「貴女は確かに人の姿をしているわね。でも」
でるえらは笑う。
「この戦いの構図。強大な力を振り回す貴女と、その攻撃を掻い潜り」
でるえらが振り回しを潜って、間合いの内側に入ってきた。
「剣を振るう私。これは魔物と人の戦いに似ていないかしら?」
でるえらの剣が私の喉を狙う。
その剣を左手で握って止める。
「矛盾ね。貴女も薄々気づいているのじゃない?」
左手が熱い。
じわじわ全身が熱い。
でるえらの剣から黒いぬるぬるしたのが広がっていく。
「自分がどうしようもなくドラゴンだということ。人の姿をしていても、人になり切ることが出来ていないことを」
でるえらが顔を近づけてくる。
「貴女は本当は、人に近づきたいだけじゃないかしら? そして、近づくことを恐れてしまった」
鼻同士が引っ付くくらい、でるえらが近づいて来た。
「いえ。『恐れられることを恐れてしまった』のね」
大剣を振った。
でも、ピンクの丸い盾に防がれた。
剣でダメなら。
「気になる男の子がいるのよね?」
……。
うん。
思いっきり殴ろう。
ドラゴンの手で殴った、けど、でるえらはもう遠ざかってた。
「素直になりなさい。自分が一番したいことをしなさい」
したいことならしてる。
食べたいときに食べて、遊びたいときに遊んで。
強くなりたいから強くなる。
「誰のために?」
父様と母様のために。
大事な人のために。
「そのために、自分を切り捨てるの?」
でるえらは。
この世界がまた元に戻ってもいいの?
でるえらは、笑いながら城に帰っていった。
でるえらは、言っていた。
そんなことは起こりえないと。
でるえらは魔王とその夫を信じてるみたい。
もう主神に負けるはずないって。
そして、この世界を守るためにでるえらは動いてる。
魔物が増えて魔物の魔力が満ちれば、魔王の力が増す。
そうなればこの世界を魔王の望んだ世界に変えることが出来るって。
なんとなく、思った。
でるえらは不安なのかなって。
だから魔王の力を増やすために、たくさんの魔物を生み出しているのかなって。
私は力を求めて。
でるえらは魔物が増えることを求めた。
なんとなく、そう思った。
あと、次に会った時は絶対吹っ飛ばす。
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