三匹の子猫

田舎から出てきた俺はアパートで独り暮らしをしている。
夕方までは高校で勉強し、その後はアルバイト。
内職もしているので、何とか「家にはほとんど寝るだけという暮らし」にはなっていない。
こんな生活を1年以上続けている。
何故そんなに金がいるのかと言えば、俺の夢のためである。
夢と言っても、有名な歌手になりたいとかそういう類のものじゃない。
ついでに言えば、夢は適っている。
だから、お金がいるのだ。

俺は小さい頃から、猫が好きだった。
けど、実家はイヌガミ信仰だったので猫は飼えなかった。
だから俺は学校に通うという名目で家から出て、猫を飼うことにしたんだ。


今、俺の家には三匹の子猫がいる。
引っ越し先を探す途中で見つけた子猫だ。
ご丁寧に段ボール箱に収まっていた子猫たちに一撃でやられた俺は、その段ボール近くのアパートを即座に契約して子猫たちを部屋に上げた。
幸い、ペットOKのアパートだった。


3匹の子猫はそれぞれ個性的だ。
灰色に黒縞模様が入ったアメリカンショートヘアは、噛み癖がある。
ミルクを入れた器を噛んだり、他の子猫の尻尾を噛んだり。
甘噛みなので別に被害はないけど、気づいたらいつも何かを噛んでる。
母乳を欲しがる時期はぎりぎり終わっているはずだけど、そういう癖なのかもしれない。
アメリカンショートヘアなので、「メッキ―」と呼ぶことにした。

2匹目はトラ。
いや、虎模様の猫だ。
最初に見た時は驚いたけど、茶色に黒の模様のある普通の子猫だった。
この子猫は甘えたがりで、いつも俺に擦り寄ってくる。
いつも寝床に侵入してくるので、寝相で潰れないかひやひやしながら寝ている。
甘えん坊なトラ猫なので、「トラ」と呼ぶことにした。

3匹目は、いや、もうこれは猫なのか?
幼稚園くらいの女の子に猫の耳と尻尾をつけた「子猫」だ。
ちなみに本物。
人間の言葉は分かるけど、あまり上手くしゃべれないみたいだった。
黒髪黒耳黒尻尾。
3匹の中で一番年上なのか、警戒心が強くほか二匹を守ろうとしていた。
最初のころは俺の手を引っかいたり噛んだりと酷いものだったが、ある時を境に警戒が無くなった。
今でも甘えてくることはないけど、たまにご飯(みるく)の手伝いをしてくれたり洗濯物を畳んでくれたりと、実に家に馴染んてくれている。
たどたどしいながらも会話が成立するので名前を聞いたけど、3匹とも名前が無いらしかった。
そこで俺はこの少女を瑠璃色をした瞳から「ルリ」と呼ぶことにした。

この3匹の子猫を養うのは、ちょっとしたお金がいる。
幸いなのは、この3匹はトイレのことを含めて面倒がかからないという事だ。
トイレは何故かルリが全て面倒を見てくれていたし、多少難しそうにしながらもルリ本人も俺が使っているトイレで用を済ませているらしい。
どこでそんなトイレの仕方を知ったのかと聞いたら、他の人間がそうやってトイレをしているから真似た、と言っていた。
……ルリは本当に猫として扱っていいのか悩むところではあるけど、かといって段ボールに返すわけにもいかず、警察に届けるにしたって猫込みで預かってはくれないだろう。
まぁいいや。
問題はないのだから。


ルリ達との共同生活から3年が経過した。
俺は大学生になり、ルリは小学生くらいに成長した。
メッキ―は相変わらず噛み癖が残ったままで、俺の服や指を噛んでくる。
トラも相変わらず甘えん坊で、俺が胡坐をかいているとその中に入りこんで丸くなる。
寝床に入り込むのも変わっていない。
ルリは義務教育が必要なのかはわからないけど、知っていて損はないということで、休みの日は算数や国語なんかを教えている。
他の猫たちも一緒になって勉強(?)している光景は見ていて微笑ましい。

「メッキ。トラ。ごはんの時間」
ルリが呼ぶと二匹はやってくる。
ルリ達は外に出たがらず、ずっと家の中で過ごしている。
だから大学に入ったときは今まで住んでいたアパートから引っ越し、10畳もある部屋にした。
子猫たちが暴れまわるには狭いが、部屋を別にしようとすると今まで見たことないほど反抗してくるので、仕方なしに一部屋にまとめることにした。

「さて。3人とも。今日こそ散歩に行くぞ」
「いや」
みゃあ、なぁ。
3匹の子猫は、今日も引きこもり宣言をしている。
不思議なことにルリたちは別に体に異常はない。
食べて寝てばかりなのに太らず、かといってひ弱かというとそうでもない。
ルリなんかは器用に壁を蹴って三角とびをして跳ねまわっている。
音を立てずに。
変なところで猫っぽいなぁと、初めて見たときに思った。
ほか二匹も似たように部屋中を駆け回って遊びまわっている。
俺は猫を飼うと決めた時点でそうなることは予想していたから、走り回って困るようなものは部屋に置いていない。


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