「おはよ」
生暖かい感触に目を覚ます。
薄い肌襦袢を着はだけた若い少女が、頬を舐めていた。
飴を舐める子供の様にあどけなく笑いながら、執拗に舐めてくる。
犬が舐める親愛のそれとは違い、こちらは劣情が籠っている。
熱い吐息交じりの舌が肌をぬめるたびに、ぞくりと背筋が震える。
頬から耳、首筋、胸へと彼女は舐めていく。
ねっとりとした唾液がナメクジの様に跡を残す。
いつものことだ。
諦めて彼女が舐めやすいよう、体を動かす。
もっとも、こと『舐める』事に関して彼女の手伝いをする必要はない。
気づけば彼女の長い舌が私の右腕に絡みつき、蛇の執拗さでうごめいていた。
彼女はアオ。
腰まで届く黒髪と黒い瞳、それらが仄かに青みがかっているため、そう名乗るようにしたという。
種族はあかなめ。
人の垢を主食とするジパングの妖怪だ。
ひょんなことから、いや、日々の訓練で汗をかくにも拘らず無精から身を清めることを怠っていた私の処へ、当然のごとく現れてきたのが彼女だった。
雨の日のぬれおなごのようなものだ。
現れた彼女の正体に察したとき、思わず空を仰ぎ見てしまった。
悪しき妖怪(詐術にて婿取りをする妖怪や、悪事を盗み見て婿取りをする妖怪、力づくで村から連れ去る妖怪などだな)ではないにせよ、自らの無精を喧伝するよな妖怪であるため、あまり好かれてはいない。
あかなめが欲するほど体に垢汚れがたまっていたということなのだから。
以来、私は風呂に入ることはなくなった。
アオが泣くからだ。
アオの舌は既に上半身全体を絡んでいた。
ぬるま湯につかるような、それでいて女に抱かれているような、不可思議な快感。
いや、実際にアオは私に腕を足を絡めているのだから間違いではないのだが。
「んふふ〜」
アオが甘えるように頬ずりをしてくる。
私は少しだけ笑みをこぼし、アオに口づけをする。
アオの舌は私に絡んでいてこれ以上は動かせない。
だから私の方から、アオの舌に自らの舌を絡める。
舌の表面を重ねるようになぞると、アオの目がとろりと蕩ける。
アオは朝のキスをねだる。
その理由については詳しく聞かないし聞きたくもないが、朝一番のキスは『おいしい』のだという。
私は上半身に絡みついてくる舌の根元を甘く噛み、愛撫するように舐めていく。
気を良くしたアオは、上半身にうごめく舌をより活発に動かし始める。
「ぷはぁ」
舌を口の中にしまい込んだアオは、上気した顔で息を乱している。
抱き着き絡みつく過程で肌襦袢はその役目を放棄し、肩から落ちて腰を覆うのみ。
アオの細い肩を抱き寄せると、猫の様にすり寄ってくる。
「一番、濃いの。ほしいな」
はぁ、と熱い息をついたアオは腰を摺り寄せてくる。
湿った音が下腹部から聞こえる。
とうの昔に隆起したモノが暴発しそうになる。
ぬるりと、熱い。
アオの目を見ると、アオはいやらしく笑う。
おそらく私は発情した獣の目をしているのだろう。
アオはうれしそうに、いやらしく笑っている。
常と同じように、唇を重ね合う。
アオは私の口の中を思うが様に味わいながら、私の上へと腰を下ろしていった。
「はい、お茶だよ」
朝の素振りを終えた私の処へ、アオがやってきた。
茶碗を受け取ると、冷えた茶を一息に飲み干す。
新たに入り込んだ水分は全身へ広がり、上半身からじわりと汗が浮き出る。
「昼餉の支度はできてるよ。今日は暑いからね。生姜を利かせた熱いうどんと、粗塩の胡瓜。それからアマメの塩焼きだよ」
アオは料理が不得意だが、それは手先の器用さや知識不足からくるものであり、味覚に関しては天才的ともいえる。
舐めることに関しては他の追随を許さぬ妖怪だからかもしれない。
思わぬ良妻を得たことに今更ながら、縁は奇なものであると思っていると、アオが口づけをしてきた。
「ふふっ。ねぇ。いっぱい、汗かいたよね」
顔を離したアオは、いやらしく笑っていた。
昼餉はまだ先になりそうだ。
私はいつなるかわからない腹を一度だけ撫でた後、アオの舌に身をゆだねた。
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