私はまだあまり強くない。
私がこう言うと、皆は首をかしげる。
でも私はまだ弱い。
だからここにいる。
時々巣を飛び出したくなる。
飛び出して暴れたくなる。
でも意味が無い。
困った。
「貴方が強さを求める理由を聞いた時、私はとても動揺しましたのよ」
巣の頂点、一番高い山のてっぺんに座っていると、ディリアが隣に座っていた。
公園デビューの時に最初に話しかけてきた2人のドラゴンの内の1人。
再会してからはずっと一緒にいる。
カナシャは?
「武者修行、らしいですわ。貴方に負けていられないのだとか」
じゃあ私も頑張らないと。
「ええ。そして私にも更なる精進が求められますわね」
私とディリアは夕日を見ている。
私がこの巣にやってきたのも、ちょうどこんな頃。
私があの時決めて、二人が同意してくれた約束。
2人は私を怖がらずに、一緒に強くなろうって言ってくれた。
ドラゴンは強い。
よく言われていること。
ドラゴンの誇り高さは最強を自負するから。
ドラゴンが財宝を集めるのは、収集癖とより強い人間を誘い込むため。
ドラゴンは強さが全て。
でも強い相手には鈍感。
自分の方が強いと思っているから。
私みたいなのは凄く珍しい。
今は自分より強い誰かがいて欲しい。
それに勝つために努力した方が楽しい。
「貴女は翼の先まで、ドラゴンなのね」
でもディリアもカナシャも私より凄い。
ディリアは速い。
竜形態の時はワイバーンの倍以上に大きいのに、ワイバーンよりももっと速い。
風の魔法を使っているって聞いた。
ドラゴンなのに魔法を使えるのは凄い。
カナシャは力強い。
まだ大人になりきっていないのに、大人のどのドラゴンよりも力が強い。
私も力技で乗り切るけど、カナシャはもっと力技。
大人ドラゴンの体になったらもっと強くなる。
でも私の方が速いし力持ちだけど。
「そうだったかしら? 風魔法を使ったフェイントは私の方が上でしょう」
なら試してみる?
「ええ。望む所よ」
「全力で、ですか。それは構いませんが」
大丈夫。
人の姿のままでする。
「分かりました。お相手いたしましょう」
ディラハン隊長はブロードソード使い。
魔力を使うと剣が紫色に光って、物凄く丈夫になる。
魔力の使い方次第で何でも出来るみたい。
魔力って実は凄く便利。
私はアマゾネスが使っている大きな剣を手にしている。
サイクロプスが作った丈夫な剣もあるけど、今は大きい剣の気分。
「では、参ります」
頑張ろう。
デュラハン隊長は魔力が高い。
その魔力を乗せた攻撃は重いし、鋭くさせれば地面を簡単に切り裂く。
剣を打ち合わせると、雷が落ちたみたいな音がする。
面白いので何度も叩きつける。
「相も変わらず、尋常ならざる膂力と速さですね」
でも隊長さんには効いてない。
「私も、日々精進していますから」
じゃあもっと強くする。
叩きつける強さを強めれば、魔力で弾く音が強くなる。
もっと強くすれば、もっと強くなる。
もっともっと強くすれば、もっともっと強くなる。
うん、デュラハン隊長はやっぱり強い。
せーのっ。
「はぁああああ!」
私とデュラハン隊長のタイミングが噛み合って、今日一番の大きな音が鳴る。
デュラハン隊長と私の距離が空く。
「ふぅっ、ふぅっ、ふぅっ」
まだ大丈夫?
「ええ。まだ、いけます」
じゃ、次はもっと強くしよう。
「……行きます!」
今日はディリアとディラハン隊長のお陰で、いっぱい体を動かせた。
カナシャは何時帰ってくるかな。
雷のハーピーや速さ自慢のワイバーン。
魔法の先生のバフォメットは、何時帰ってくるのかな。
私がこの巣に来てから何度かこの巣に襲撃があった。
他の場所で襲撃があったら真っ先に飛んで行った。
でもあんまり強くなかった。
あまり強いのは出てこないのかな。
デュラハン隊長はまだまだ油断できないと言ってた。
だから私はもっと強くなろうとするけど。
一緒に強くなる人が少ないから、あまり面白くない。
困った。
デュラハン隊長が言ってたけど、白いサキュバスなら強いって聞いたことがある。
他にも、同種の中で規格外の魔物はいるんだって。
でもそういう魔物は白いサキュバスと一緒にいることが多かったり、魔王の所にいるから全然見かけないって。
つまらない。
よし。
出かけよう。
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