緩やかな曲線に手を添える。
質感は柔らかくて、力を込めれば指がめり込みそう。
細いラインに指を滑らせる。
指で弾くと、甲高い音が響く。
視線の先にいるのは弓先生のエルフ。
口を堅く閉じて、私の動きをじっと見ている。
「では、ご存分に」
私は頷く。
指を穴の中に入れて、軽く摘み上げて。
キリキリと引っ張る。
弓先生は私をじっと見るだけ。
口を閉じたまま。
そして私は、指を離す。
射放った矢は、的に当たらなかった。
「当たりませんでしたね」
弓先生がほっぺたをひくひく動かしている。
弓はとても難しい。
遠くの的に中々当たらない。
今は弓の勉強中。
巣の外にある訓練場で、遠く離れた位置にある的を射抜く練習。
でも中々当たらない。
困った。
「弓には三読が必要といわれています。【風を読む】【相手の動きを読む】、そして【自身を読む】です」
首をかしげる。
本を読むの?
「いえ。読みません」
そうなんだ。
相手の動きを読むのは何となく分かる。
そんな気がする。
相手が動いてから反応しているから分からないけど、相手が何をするのか当てること、かな。
「その通りです。また、風も気まぐれに吹くように見えますが、熟練者であれば10秒後の風の動きを言い当てる事が出来ます」
色々と教えてくれたけど、よくわからない。
特に【じしんを読む】はぜんぜんわからない。
「弓は威力などより、先読みと命中精度が求められますから」
弓先生が少し困ったみたいに笑う。
弓も強い威力を出せたらいいのに。
弦を引いた分だけしか飛ばないから全然飛ばない。
「私の村では最も強い弓なのですけれど。これ以上となりますと」
弓先生が言いよどんだ。
案内された先には、大きな弓があった。
弓というかボウガン。
10人掛けの机みたいに大きなボウガンが置いてある。
「バリスタ、と呼ぶそうです。槍の様に巨大な矢を放ちます。城攻めの際に使用されるそうです」
バリスタは大きい。
持ち上げる事は出来るけど、弦が引けない。
元々横向けに置いて使うみたいだけど、置いたら弦が引けない。
槍だけなら使えるけど。
「どうやってですか?」
説明するために、手槍の様に大きな『矢』を持って、投げる。
遠くに離れた的に『矢』が当たった。
木製の的はバラバラになった。
「見事。投げれば、中心に当たるのですね」
弓先生が地面に膝を付いてる。
何だか悲しそう。
よくわからないので、弓先生の頭を撫でた。
格闘の先生が来た。
今日はワーウルフの狼先生。
「今日もやるぞー!」
おー。
狼先生の動きは速い。
手で殴ってきたり、爪で引っかいたり。
地面すれすれに屈んで足を狙ったり、顎を蹴り上げてきたり。
どんな体勢からでも攻撃をしてくる。
正面かと思ったら後ろに回り込んだり。
下かと思ったら飛び跳ねて頭を狙ってきたり。
手だったり足だったり。
色々と忙しい。
一番困るのは攻撃の軌道が変わること。
避けたと思ったら直角に曲げたり。
曲線に曲ってきたり。
目で見ていたら追いつけない。
だから音を聞く。
腕や脚以外の動きを見る。
「そこ!」
でも、避けきれない。
「いやー、随分と動きが良くなっているよ」
でも避けれない。
「いやいや。スピードが信条なのよ? うちらってさ」
そうなんだ。
「このままじゃ尻尾も使わなきゃ駄目かもねー」
狼先生が尻尾を動かす。
何だか、えっと、ギル何とかみたい。
「あははっ。私が尻尾と羽まで使うようになったら、免許皆伝だね」
試しに私も翼と尻尾を出してみた。
結果はやっぱり私の負け。
やっぱり難しい。
「避けれないからって〜、掴んで投げるのは禁止〜、がくっ」
他にも剣や槍の勉強もした。
最後にはどの先生も、がっくりとしてた。
やっぱり武器を使ったり技を使う才能が無いのかな。
困った困った。
「一つ、お聞きしてよろしいですか?」
私と何時も一緒にいるデュラハンの隊長さん。
大人だけど他の人よりずっと背が低い。
「背の事はこの際どうでもよいことです」
「何故強さを求めるのですか?」
首をかしげる。
「貴方は既に魔物として最高クラスの力を持っています。なぜ今よりも強くなろうとするのですか?」
首をかしげる。
もっと強くなりたいから、強くなろうとしてる。
「まだ、足りないのですか。なぜですか?」
それは。
「それは?」
秘密。
そう言うと、隊長さんがうな垂れた。
「わかりました。しかし、理由なき強さに意味はありませんよ」
理由ならある。
「……わかりました。いつかお聞かせ願えますか?」
うん。
自信が付いたら教える。
「では、その日が来る事を願っております」
私が武器を使うのは、武器を使うときの気持ちを知るため。
後は、武器を使える様になった時のため。
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