○序章
砂漠には危険な魔物が多い。
苛酷な自然環境の中、魔物の生存競争も激しい。
その砂漠で、照りつける太陽の下。
一人の若い旅人が暑さに喘ぎながら歩いている。
彼は今、とても危険な状態にあった。
彼の後ろにはマミーが群れを成して歩いてきている。
彼はピラミッドの遺跡調査に入った所、運悪く魔物に見つかってしまった。
慌てて逃げ出したが、マミーは黙々と彼の後をついてくる。
このままじゃ何時やられてもおかしくは無い。
彼が毒づくのも無理は無いだろう。
彼がサボテンを振り返ると、節のある尻尾を擡げた魔物と目が合った。
砂漠と一言に言っても様々な種類がある。
見渡す限り足首まで埋まるほどの細かい砂しかない砂漠もあれば、比較的踏み固められて堅い砂とサボテンを中心とするいくつかの植物が生えている砂漠もある。
彼がいる砂漠は後者の類で、見上げるほどのサボテンを日除けに休む事が出来る。
そんなサボテンに身を隠すように追跡する、長い尾を持つ魔物。
砂漠の暗殺者、ギルダブリルだ。
彼女は目が合うと妖艶に目を細める。
口元を布で隠しているが、きっと舌なめずりをしているに違いない。
他にも隠れながらついてきているスフィンクスもいるのだが。
こちらは旅人に見つからないように上手く追跡している。
時々、旅人に襲い掛かろうとするのだが、ギルダブリルに阻止されている。
彼にとって不幸中の幸いな事に、この2者が争っている為、彼はまだ逃げ続ける事が出来たのだ。
しかし。
彼の命運はここで尽きる事になる。
かすかな地鳴り。
旅人が首をかしげ、ギルダブリルが警戒に尻尾を掲げ、察したスフィンクスが隠れるのをやめて青年に駆け出す。
だが、遅い。
砂中から突如として現れた巨大な口が青年を飲み込み、砂中へと潜って行った。
呆然とするギルダブリル、愕然とするスフィンクスを尻目に。
地鳴りは遠ざかっていく。
「あれー。何してるのー? 何してるのー?」
好奇心旺盛な彼女が俺の周りをグルグルと回りながら覗き込んでくる。
「何って。執筆だよ」
「しっぴつー? そんなことより、えっちー。えっちー」
一度だけ小首を傾げた後、彼女がぬめる体で抱きついてきた。
「そんな事って。俺の仕事なんだぞ」
「えっちー。えっちしよー」
「やれやれ」
俺は諦めて執筆道具を鞄にしまい込む
放って置くと、彼女の消化液で全部溶かされてしまうからだ。
服は既に無い。
「んー、ちゅ。ちゅ」
赤い舌が俺の口の中に入り込んでくる。
彼女はキスをするだけで、抱きつくだけで気持ち良さそうに体を震わせる。
最初、俺が彼女に捕まった時、彼女が一体何者なのか全く分からなかった。
覚えているのは、砂の下から現れた巨大な口。
それだけだ。
それでも嘗ては魔物研究家だった知識を総動員して、ようやっと思い出した。
恐らく、彼女はサンドウォームだ。
砂を泳ぐドラゴン。
砂漠の大蛇。
飲み干す砂漠の主。
様々な呼び名がある、巨大な魔物だ。
古い時代には魔物も建物もありとあらゆる物を食べていた、悪食の魔物。
しかし全ての魔物たちはある時期を境に変化していて、このサンドウォームも同じ様に変化したのだろうと思っている。
問題があるとすれば、私がそれを確認する方法が無いと言う事だ。
彼女は片時も私から離れようとせず、常に寄り添ってくる。
外に出たいと言っても、外は危ないからと出してくれる気配が無い。
ドリアードやミミックの様に、常に内側に確保しようとしてうほぁ!?
「人が考え事をしているのに、変な所を舐めないでくれ」
「にへへー。ごめんなさーい」
彼女に捕まって以来使う事の無い穴に、ぬめる彼女の埋め込まれていた。
骨は無いようだが骨に類する堅い芯の様な感触が感じられる。
だが人間の指のような堅さは無い。
そもそも、彼女の体は全て柔らかい。
全てが極上の舌のようであり、或いは膣壁の様でもあるのだ。
スライムに似た髪を撫でると、にゅるりと彼女の髪に舐められる。
「はふぅー」
魔物に理屈は通用しない。
恐らく彼女は、体の内側全てが彼女の性感帯なのだろう。
魔物にはよくある事だ。
大事な事なのでもう一度繰り返そう。
魔物にはよくある事だ。
私はこの奇妙な魔物と暮らす事をすでに受け入れている。
いや、むしろどうやってここから出るんだと。
普段は地中に潜っていて、ドラゴンもかくやとばかりの外殻に覆われていて、あまつさえこんなにも愛らしく甘えてくるのだ。
勝てるはずが無い。
逃れられるはずが無い。
一度、そう割り切ってしまうと後は楽だった。
せっかくなので教団からは禁書扱いされるだろうが、私は私と彼女の性生活を書き綴る事にした。
願わくば、これを見た誰かが私を羨んでくれれば幸いだ。
○初日
私は食われた直後、死を覚悟
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