ファーストこんたくと

 僕が彼女と出会ったのは偶然だった。
 最初は電話でのやりとり。

「あの、オーダーメイドのメガネをお願いしたいのですが」

「はい、できますよ。視力等の確認もございますし、他に今は形状記憶のメガネも新素材でして、色々なデザインの物をご用意できます」

「あ、あの、では、来店日と時間をお伝えします。〇月×日17時頃。できればあなたの勤務時間に行きたいのですが」

「はい、その日でしたら僕が居ます。ご来店こころよりお待ちしてますね。あ、お名前よろしいですか?」

「メアリといいます。もっと長い名前なんですけど」

「メアリ様ですね。では〇〇がお受けいたしました。改めてよろしくお願いします」

「はい♪」

 僕は電話ごしのやり取りだったのに、なぜか心臓が高鳴る音がした。メアリさん、言葉も違和感がなかったしハーフの方なのだろうか?




「あの、〇〇さん?」

「はい、いらっしゃいませ」

「メアリです。今日はよろしくお願いしますね」

 と彼女が言った瞬間、店内の照明が真っ暗になった。

「え」

「ごめんなさい、ちょっと待ってください」

 再び照明が点灯すると、僕の前には不思議な女性が立っていた。

「え、あの」

「あの、驚かせてしまってごめんなさい。私はゲイザーという魔物なんです」

「は、はあ、いえ、あまりのことに」

「あまり驚かないんですね♪」

「色々な方の瞳を見てきましたが、その、メアリ様の瞳は大変美しいです」

「………」

「あの、どうされました?」

「きっとものすごく驚くと思っていたので、電話口でも感じましたけど、実際に合ってお話して、あなたが担当で良かったです」

「僕もこんな綺麗な方とお会いできて、あの、後ろに見える目も見えているんですか?」

「はい、……ごめんなさい。こわいですよね」

「全然っ!! むしろかわいいじゃないですか!!」

「……」

「あの、僕変でしょうか?」

「いえいえ、まさかそんなに褒めていただけるなんて」

「あ、すみません、メガネでしたね。困りました。まさかメアリ様のような瞳とは思わなかったので」

「いいんです。それに様付けなんてやめてください」

「メアリさんで」


「では、あーーー、つかれた。こんなしゃべり方なんだ」

「え」

「へへっ、驚かせちまったな、こっちが素のしゃべりなんだ。ありゃ? どうした」

「あまりの変わりようにこっちのがびっくりです」

「ははっ、そっかそっか、まあ、こんななりだけど、お前のことは気にいったぞ。その瞳もだが、後ろの目まで褒められるなんてな」

「正直に言ったまでですよ」

「くくっ、ほんと変わった奴だな、お前。いや、そんでメガネなんだけど、コンタクトなら可能か?」

「あ、ちゃんとサイズの詳しい紙を持参してくれたんですね」

「ふふふ、さすがになー。わたしもまさか魔物なのに目が悪くなるなんて思ってなかったからよー」

「あは、なんかメアリさんって、すごく面白い方ですね。ってお客様に対して失礼しました」

「なになに、全然きにしねーよ!! で、どうだ? 作れそうか??」

「ちょっとメーカーに聞いてみます。何日か時間をいただけますか?」

「いーぜ。そっか、やっぱり今日は無理かー」

「ありがとうございます。あの後ろの瞳は大丈夫ですか?」

「あーこれね。問題ない。それじゃ、こほん、また連絡お待ちしてますね」

 という言葉を最後にメアリさんは霧のように消えてしまった。
 いつの間にか、僕の手の中にはメモが握られていて、ケータイの番号らしきものが書かれている。

「ふう、メアリさん、綺麗だったな……。あ、メーカーに聞かないと」




「こんにちは、連絡ありがとうございます。まさか直接あなたの携帯から電話をいただけて嬉しいです」

「お待ちしてました。どうぞおかけになってください」

「で、どうよ?」

「驚きました。メーカーにあのサイズのコンタクトを問い合わせたら、ちゃんとゲイザー用の視力検査装置と、レンズが送られてきました」

「おっ、それがそうかっ。すげー、んじゃ、さっそく頼む」

「はい」


「うーん、これなら送られてきたレンズがそのまま使用できる視力ですね。ちょっと調整します」

「いーぜ、のんびり待ってる」

「コーヒーとかお茶、ジュースがありますけど?」

「ジュースで」

「はい」





「どうですか?」

「おおおおお! すげー、ちゃんと見えるし、全然痛くないじゃん!!」

「ああ、良かったです」

「ケースとかもあるんだな、それがそうか??」

「はい、専用の洗浄剤はこちらで取り寄せできますので」

「りょーかい! おおお、世界が違ってみえるぞ」

「お支払いはどうしますか」

「カードで1回で頼む」
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