レスカティエ 郊外 戦闘部隊編 前編

 俺は突如編成されたというレスカティエの特殊部隊のひとり、自ら志願をして配属されたのが、このなんとも奇妙な部隊だった。


『魔物の襲撃時、我々は予め決められた避難民を護衛し国外へと向かう』


 子どもの頃からレスカティエほど安全な国は無いと思っていた。多くの勇者が守る国、また各所に強力な結界が施され、魔物を寄せ付けないとまで言われている。
 まさか自分がそのような部隊に配属されるなんて、しかも避難民といっても貴族のご子息やご令嬢、有力者の子どもばかりというのも気になった。
 しかしながら、配属されたばかりで自分の上官に詳細な理由など聞ける訳もなく、今日も得意である弓矢の練習を行っている。

 そもそもの配置理由は、年に何度か開かれる一般国民も参加できてそれぞれの得意分野で技を競い合う。剣術、武闘、魔術等の大会にて、俺が弓矢の部門で優秀な成績を収めたから、というのも驚きだった。
 しかしながら、この部隊にいて武勲を立てることなどできるのだろうか? このレスカティエが魔物に襲われる訳なんか無い。やはり俺が元貴族だったという理由もあるのでは……。
 
 とんだ貧乏くじだ。
 最も部隊は緊急時に即動けるように待機という。これがまたサボりに見えてしまうし、せっかく自分の腕を実戦で試したいと思ってたのだが……。剣術なら対戦相手が居る。しかし弓矢で競い合うというのも狭い敷地内、いくら矢の先の刃を潰しても一歩間違えれば相手の命を奪うことになってしまう。
 模擬戦闘訓練と称した。建物内や動く的(魔物の動きを想定)といったのも繰り返し行われたが決して実戦向きとは思えない。
 魔術部隊にお願いして、幻術の魔物を相手に弓を放つ模擬戦闘をやる機会もあったが、やはり本物の魔物ではないので果たしてこれが役に立つのか? と聞かれれば『俺はなんとも言えない』と答えるだろう。実際魔物の姿を見たことが無いからだ。
 いかに正確に、そしてすばやく次の弓矢を射るか……。結局はその練習の繰り返しがいいのだろう。
 考え事をしていたせいだろう、次に放った矢は的から大きく離れた石壁に当たり粉々に砕けてしまった。
「俺は何をやっているんだ……」





「お兄様ーー」
 この場にそぐわない声。
 一人の少女が俺に向かって走ってきた。幸い訓練場には俺以外の人影は無い。まあいつも通りといえばそうだ。他の仲間はカードゲームや中には寝ている者さえいる。
 今休んでいる仲間も部隊長が戻ってきたら訓練を始めるだろう。

 さて、どういう訳か、少女がこの暇な時間を知っているかのようにここに通っている。
 しかも、あの恰好で……俺は練習用の弓矢を近くに置き、ため息を付きながら言う。
「お前、もう俺たちは兄妹じゃないんだから、それにここは軍の施設だぞ、何度注意したらわかる」
 年の離れた、元妹のレナだ。
なぜ“元”かと言うと、血の繋がりは半分だ。先に言ったように俺はある貴族の家の息子だった。しかし、俺は正確には違った。母だと思っていた人は別人、俺の父は家の使用人に手を出して生まれたのが俺だった。それを知ったとき、俺は家を出た。
 元々おかしかったんだ。
 妹は金髪で俺は黒髪。母親から誕生日を祝って貰ったという記憶が無い、それはそうだ、自分のお腹を痛めて産んだ子ではないのだから……。俺の本当の母は病気で亡くなったと父から聞かされた。当時まだ子どもだった俺は……、

 やめよう、父は許せなかったが、妹であるレナに罪はない。


「もう、お兄様ったらまた考え事ですの?」
「なんでもない、というかよく入れたな」
 妹はまだ幼い、言葉使いは貴族のそれだが、年はやっと 才だ。
 首を傾げてにこにこしている姿はまるでかまって欲しいという、子犬に似てる。

「わたくし、貴族ですので」
 カーテシーをしても違和感がすごい、……まあ大分様になってきたかな。
 というか、城の警備が緩すぎる。確かにレナは頻繁に遊びにくるので、城の騎士達も苦笑いしながら通しているのだろう。

「とにかく危ないから、それに何かあったら俺の首がやばい」
 子どもには少々不謹慎だが、俺は親指を下にしてすっと自分の首の前でそれを横へと斬る。
「大丈夫です。お兄様にはご迷惑はかけません!」
 軍の施設、しかもここは仮にも特殊部隊という名目の本当は存在しない部隊、まてよ? そんなのだから警備もざるなのだろうか。
 しかしだ、施設内には武器がある、子どもがおいそれと遊びに来ていい場所ではない。
 怪我でもされたら大問題だ。当のレナは俺のしぐさの意味など気にしていない様子だ。

「ここにくる段階ですでに迷惑だって、せっかく軍に入れたのに、嫌だぞ。仕事が無くなるくらいならまだいいけど」

「その時は、わたくし、お兄様と結婚します!」
 俺の腰に抱
[3]次へ
ページ移動[1 2 3 4 5 6 7]
[7]TOP [9]目次
[0]投票 [*]感想[#]メール登録
まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33