突然かわった日常

「はぁ……」

 会社と家の往復、正直、家には寝るだけに帰っている状況。食事も最初こそは自炊しようと意気込んで色々調理器具を買ってみたものの、結局、仕事で疲れて帰ってきてから飯を作るというのが大変でやめてしまった。台所にはカップ麺やコンビニ弁当が積み重ねられていて、片づけようと思うのだが、疲れすぎていてスーツから着替えるのも面倒でそのままベッドに倒れこんでしまった。

「……すぅ、はっ! やばい」
 慌てて壁の時計を見るととっくに日付が変わっていた。せめてお風呂に入って軽く何かを食べないとまずい。
「明日も朝から会議だし、資料も作らないと」
 まだ半分寝ぼけていたものの、ジャージに着替えて、冷蔵庫にあった栄養ドリンクを飲む。
「ぷはっ、なんとかこれだけでもやらないと……」
 結局、資料を作り終えて、お風呂に入ったり、軽い食事(カップ麺)を食べ終わるころ、外は明るくなってきていた。

 生活崩壊、というのだろうか。
 入社したばかりの新人が何人も立て続けに退社してしまったので、その分の仕事がどっと自分の所にきてしまったのだ。最も上司はそれ以上に忙しいらしく、日に日にやつれていく俺を見かねたのか退社していい、と言われた。
 そして、一人残ってパソコンに向かって明日の会議の準備をしているようだった。大丈夫だろうか……。

「結局、俺も仕事を持ち帰ってるけどな……はは、眠いけど徹夜続きでテンションがおかしいぜ……」
 最近、独り言も増えてしまった。以前は友人たちと飲みに行ったりして楽しんだものだが、そんな余裕はいつの間にか無くなってしまった。

「そういや、ニュースや新聞見てないな」
 最近、魔物娘という存在がどうとか、よくわからない出来事が続いているようだが、俺には別世界の話にしか聞こえなかった。それより仕事仕事。実家を出てからというもの友人はおろか、恋人など作る暇もなく、TVから流れてくる『魔物娘との結婚!! 文化の違いは愛で乗り越えた』というのも、ふーん、程度で聞き流していた。

 パソコンに向かって資料を作り、ちょっと仮眠を挟んで準備をしていたら、もう出勤時間である。今日もまともに眠れなかった……。

「USBメモリーと会議で使うの一式、忘れ物無いな、さて、行ってきます」
 玄関飾られている。西洋人形に向かって朝の挨拶をして、鍵を閉める。実家から持ってきた宝物だった。男の俺が言うのもなんだが、子どもの頃からずっと一緒だったのでなんだか幼馴染のようであり、人との交流が無くなり、友人が居なくなった身にとって、あの人形はより大切な存在へとなっていった。
 


……



 なんとか今日も終わった。時刻はすでに23時過ぎ。
「ただいま……」

「おかえりなさーい」
「え!?」
 家から漏れる灯を不思議に思いつつも、いつものように玄関先の人形に「ただいま」を言おうとしたら無くなっていて、代わりに女の子の返事が聞こえる。
 とうとう幻聴まで聞こえるようになってしまったか、どれだけ疲れているんだ俺は……。それよりも人形だ! 大事な宝物。今朝は確かにあったはずなのに、きょろきょろと玄関内を探しているうちに、不思議な物が目に飛び込んできた。ゴミが片付いている……。あれだけあった弁当箱とかちゃんと仕分けされて、玄関に置いてあったのだ。

 トコトコトコ

「なっ! えっ! どういった状況だこれ!?」
「えっと、あの大丈夫?」
 更に追い打ちをかけるような出来事がおきた。なんとあの西洋人形がいつの間にか俺の顔を覗き込んでいる。

 この時点で俺の意識は途絶えた。


……



「う、うう」
「あ、起きた!」
 意識の覚醒と同時に、体がだれかに抱きしめられたようだ。暖かい感触は感じるものの、やけに軽い。
「良かった。とても疲れていたんだね。大丈夫?」
「え、あの。ごめん。ちょっと、いやすごく混乱してる……」
 抱き着いていたのは小さな女の子、フリルとリボンがいっぱい着いた豪華なドレス。そして、紫紺の瞳に銀色の髪……心配そうに顔をかしげている少女(?)
「今日はこのまま休んだ方がいいよ」
「あ、う、うん。そうだね」
 そういえば明日は休みだっけ……何日ぶり…だろう。
 少女(人形?)が俺の額に小さな手を添えた瞬間、なぜか眠気が襲ってきて、俺はそのまま眠ってしまった。

「おやすみーー。えへへ、かわいい寝顔。ちゅ」
 男の唇にそっとキスをすると少女も布団に潜り込んで再び男を抱きしめる。
「あったかーい、むかしもこうやって一緒のお布団で寝たことあったなぁ」
 独り言のようにつぶやいた少女もすっと目を閉じる。今日はいつもよりいい夢が見られそうだ。



……



(暗い……、さむいよう)


「あっ! じいちゃーん。これこれこの箱!」
「ん、なんじゃっ
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