不思議な猫はニヤニヤ笑う

~不思議の国への誘い~
辺り一面に広がる草原に男が微睡んでいた。
夢の中にもその草原は広がっていて、そこには場違いな赤いハート型の扉がぽつりと佇んでいる。
「なんでこんな所に扉が?」
何か細工がしてあるようではなく、扉の反対側には何も無い。
そして、この男は生まれながらに好奇心が強い。
ともなれば、扉を開けて向こうに行こうと思ってしまうのはもはや必然といえる。
「建物が無いのに扉だけあるなんて不思議だな・・・。扉の向こうには何があるんだろうか?よし、確かめてみるか!」
勢い良く扉を開け、くぐり抜けたその刹那、男は暗闇に飲み込まれてどこへともなく落ちていった。
そして、後に残るのは男と扉が消えた草原のみであった

~ウサギ穴とニヤニヤ笑い~
それから長い間、男は暗闇を落ち続けていた。
誰もいないのに音楽を奏でる楽器や踊る動物、エトセトラとすれ違い、忙しなく時間を気にするせっかちな白ウサギの追跡から逃れつつ、カラフルで変わった形の扉をいくつもくぐり抜けていった先に待っていたのは、これまた変わった森だった。
花は歌い、木々は絡み合いながらうねり、今まで見たこともない動物がそこらを歩き回っている。
迷いこんでしまった世界はとにかくへんてこだった。
そして男が周りの奇々怪々な様子に驚いていると、頭上から歌が聞こえてきた。
「こ〜の国は〜、ま〜かふ〜しぎ〜、ま〜りょくで満ちた〜国だ〜。迷い人かニャ?」
仰ぎ見ると、ニヤニヤ笑いが枝の上にあるだけで、頭や体はどこにも見当たらないではないか!
「誰だ!?」
「おやおやおや、誰かがウサギ穴から落ちて来たと思えば人間の雄じゃニャいか。人の世界では他人に名乗らせる前に自分が名乗るらしいがニャア?」
まあ私は人じゃないけれどニャ、とニヤニヤ笑いは誰に話すともなくつぶやく。
「むぅ、確かにそうだな。僕の名前は男っていうんだ。それで君は?」
「私?私は・・・」
そう言いかけると頭上のニヤニヤ笑いがパッと消え、同時に男の背中にむにゅっとした感触が。
「チェシャ猫っていうニャ。よ・ろ・し・く・ね。ふぅ
#9829;」
急に後ろに現れた猫のような獣人は、その豊かな双丘を押しつけたうえに耳に息を吹き込んだ。
そのため男は素っ頓狂な声を上げて驚いたのだった。

~不思議の国の案内役~
「君は見た限りだとアリスやワーラビットと一緒じゃニャいし、どうやって来たの?」
「それがよく分からないんだ。夢の中でハート型の扉をくぐり抜けたと思えば、ここにいた訳だからな。やっぱりここは夢の世界なのか?」
チェシャ猫はハート型の扉を経由して来た事を聞くと、ハートの女王の仕業だと理解し、悪戯を思いついたのかいっそうニヤリと笑った。
「夢の世界だとすれば答えは分かっているんじゃニャいかねぇ、なにせ君の夢なのだから」
「やっぱり夢の世界なのか・・・。夢でもなければあんな光景は見られないだろうしな」
「さっきは夢だと言ったけど、何かに触った時の感触はしっかりあるから本物かもニャ」
触ってみろととでもいうように胸を突き出すチェシャ猫に、双丘を押しつけられたことを思い出したのか男の挙動はぎこちない。
「じゃ、じゃあここは現実世界だっていうのか!?」
「それはニャ、君が、どっちがいいと思うかだニャー」
意地悪そうな笑みを浮かべて楽しげに尻尾を動かすチェシャ猫を見て、この問答に終わりがなさそうだと思った男はさすがに困りはててしまった。
「さて、どうしたものか・・・」
「観光でもしていったらどうニャ?それに私はこの国の案内役だしねぇ」
「じゃあ、ここで立ち話をしても何も始まらないし、案内をしてもらおうかな」
「誰が?」「チェシャ猫が」「誰を?」「僕を」
すっとぼけである。
「・・・」
「そ、そんな顔で睨まニャいでほしいねぇ。ただのお茶目ニャ」
「で、案内を頼めるのか?」
「それはもちろん!しっかり付いて来てニャ」
言うが早いか、チェシャ猫の体はスゥっと消えていった。
かと思えば、あのニヤニヤ笑いだけが残り、『不思議の国にようこそ』と言うとこんどこそ消え、足跡だけが森の奥へと伸びていった。そして男は、森の奥へと伸びていく足跡を追っていくのだった。

~不思議の国の不思議な森~
-キノコの森-
男が自分のいた世界では見られない不思議な物に気を取られながら足跡を辿っていくと、鬱蒼と茂るキノコの群生地に着いた。
「やあ、ずいぶんと遅い到着だねぇ」
ニヤニヤ笑いではあるが少しむっとしている。
「ごめんごめん、どうにも珍しい物があると気になってしまう質で・・・」
「まあ、そんな事だと思ってたけどねぇ。さて、ここはキノコの森ニャ!」
そこには小さいものはもちろん、見上げる程に大きなものも生え、赤青黄色はては極彩色まであるまさにキノコの森といえる場所であった。
「凄
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