築30年、エアコン無しで風呂は共用、床は畳で八畳一間のおんぼろアパート。そこが俺の住んでいる部屋だ。ただでさえ狭い部屋だっていうのに俺の部屋には同居人がいる。本人いわく虎らしいが、俺からすれば人っぽい猫というか、猫っぽい人だ。部屋の中でだらだらしてる姿なんて家猫のそれに近い。そんなのが虎だっていうのなら、実家の茶虎猫だってすぐにでも猛獣の仲間入りができる。そして、その同居人は扇風機の首振りに合わせて畳の上を転がりながら何度も俺に体当たりをかましてくれている。
「たけしー、かまってくれてもいいんだぞー」
「いや、柔道バカ一代読むのに忙しいから遠慮する。あと、ぶつかってくるなよ・・・」
「それは私の進路上にいる武が悪い。そんなことより私はかまって欲しいんだぞー」
かまえかまえと騒がしいこいつの名前はミコ、美しい虎と書いて美虎。人虎っていう獣人らしいんだが、さっきも言ったようにあまり虎っぽくない、というより一般的な人虎っぽくない。しまわれていて見えないが、強さの象徴とも言えそうな爪だって爪研ぎで綺麗に丸く整えられている。
「あ゛ー涼じい゛ー」
そしてなによりも、ジャージをぱたつかせながら扇風機の前に陣取って涼んでいる姿は高潔な精神なんて微塵も感じさせない。
「俺も熱いんだから首振り止めるなよ」
「だったら冷たい飲み物でも持ってくるんだな」キリッ
「それくらい自分でやれって」
「私はだらだらするので忙しいんだ」ドヤキリッ
こうなったらテコでも動かないのは分かりきっている。俺が折れてやるのもいつものことだ。はっきり言って不服だが。
「仰せのままに。うわ、ジャージきったな!」
「え?ああ!ジャージに畳のカスが!」
ざまぁみろい、服に着いた畳のカスはしぶといのだ。手でどうにかできるものではない。おっと、そういえば飲み物を切らしていたんだった。自販機にでも買いに行くとしよう。
「たけしー、ゴミが取れないぞー。あれ?武?」
飲み物を買って帰ってくると、脱ぎ散らかされたジャージの上下があった。もちろん畳のカスまみれである。
「美虎、せめて洗濯機に入れてくれ・・・なにやってんだ?」
「んあー?これか?」
Tシャツとハーフパンツに着替えていて、手足をぴったりとそろえて仰向けに寝転んでいるのは分かるんだが、それ以外はさっぱり分からない。本当になにやってるんだよ。
「これはな、天井のしみを数えているんだ。13、14・・・」
いや、本当になにやってるんだよ。あと、しみを数えながら話すのは止めてくれ。
「たった数分だってのにどんだけ暇に感じてたんだよ」
「急にいなくなって寂しかったんだぞ?それに少し泣いた」
「あー、ごめん」
「だから、かまうといいぞ」
どんだけかまってほしかったんだよ。まあ、俺も漫画を読み飽きたとこだしちょうど良い。それじゃ、ちょいと失礼。
「真っ昼間から覆い被さってくるなんてずいぶんと積極的だな。今日は武が上でズッコンバッコンやるのか?」
「そんなんじゃねぇよ」
とんでも発言にぞんざいな返事をしながら、美虎の両腕を脚で抑えながら覆い被さり、左腕を首の下に回して固定する。もちろん痛くないように力加減はしているが、簡単に抜けない程度の力は込めている。
「ふむ、下にしかれるのは私という雌が征服されてるようで興奮するな。濡れてきた」
「まだ何もしてないだろ。発情期か?」
「年中そうだな」
原因の半分は俺だが、もうこいつはダメかもしれない。さて、ぐずる前にかまってやるとしよう。
「ここが良いんだろ?」
「ふふふ、くすぐったいぞ」
こうやって喉と顎を撫でてやると、くすぐったがるが目を細めて気持ちよさそうにする。こうしているとなんとなく実家の茶虎猫を思い出す。たしか今年で20歳になるらしいが元気だろうか。
「・・・私と楽しんでいる時に他の猫のことを考えるのはどうかと思うぞ」
「・・・どうして分かった」
「女の勘というもんだな」
「悪かったよ。機嫌直してくれ」
「くふふふふ、だったらどうしたら良いか分かっているだろう。んふふふ」
「はいはい」
指先で顎と喉を優しく掻くように撫でてやるのが美虎のお気に入りである。少し機嫌を損ねたくらいならだいたいこれで許してもらえる。ちょろ可愛い。
「そうそう、そこをもっと撫でれば許すのもやぶさかではないぞ。ん〜ごろごろ」
人虎らしくはないだらしなさだが、こういった所が可愛くてたまらない。正直、一日中これで過ごしていられる。
「んふー、やはり武の喉ゴロゴロは最高だな。しかし、私だけが気持ちよくなってもずるいからな、一回どいてくれ」
「ん、分かった」
美虎の上から退くと、美虎は窓ガラスを閉めた。暑いと抗議すると、声が漏れるかもしれないかららしい。だが、このアパートは築30年のぼろである。もち
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