マルクはがむしゃらに火山の巨大洞窟の中を走り回っていた。
より正確にいうと、彼を追ってくる旧時代の姿をした紅いドラゴンから逃げ回っていた。
「はあ!はあ!なんでこの洞窟はこんなに入り組んでるんだってあちぃい!」
辺りの空気が吸い込まれ、何かを吐き出すようなゴオッという轟音が洞窟に響く。
熱気を感じて横っ飛びで脇道に転がり込むと、さっきまで彼がいた場所を灼熱のブレスが襲った。
岩の壁や地面はブレスによって溶かされ、ぐつぐつと沸き立っている。
「おいおい、冗談じゃねえぞ」
ぜいぜいと肩で息をしながらその様に驚愕していると、ドラゴンが駆けてくるせいで地鳴りが起き、天井から小石がぱらぱらと落ちてくる。
「もう来やがった!やべえよやべえよ!」
『待たんか貴様ァ!逃げずに我と闘え!!』
「待てと言われて待つ奴がいるかよおお!」
『このシューティングスターから逃げられると思うなよ!』
煤にまみれた鎧をがしゃがしゃと鳴らしながら、マルクはこうなってしまった原因を思い出していた。
ことの発端は、彼の傭兵仲間であるレイが持ってきたある依頼だった。
-酒場-
ギルドお抱えの酒場の一画で、マルクとレイが額を集めて話し合っている。
「この依頼、どう思いますか?」
「なになに・・・火竜山での魔界銀採取、報酬は金貨五十枚。ずいぶんな儲け話じゃねえか」
「ええ。ですが、依頼内容の割に報酬金が多額なんですよ」
「まあ、たしかにそうだな」
マルクは依頼書をテーブルに放ると考え込むようにして俯いた。
すると、麦酒がなみなみと注がれたジョッキを持った大男が二人のいるテーブルに近づいていく。
「俺をはぶいて内緒話とは水臭いぞ兄弟たち!」
その大男はテーブルにジョッキを乱暴に置くと、空いている椅子にどかっと座り込んだ。
ギシッと椅子の脚が悲鳴を上げる。
「ゴードンさん、依頼書を濡らさないでください!」
「やっと来たな飲んだくれめ」
「いやいや、すまんかったな!」
がはははっと豪快に笑うこの大男の名前はゴードン。
彼もまた、マルクの傭兵仲間である。
「それで、どんな内緒話をしていたのだ?」
「ほれ、これを読んどけ」
テーブルにぶち撒かれて三分の一ほどが無くなってしまった麦酒をあおるゴードンに、マルクは麦酒濡れの依頼書を渡した。
「ははあ、なるほどなぁ・・・」
「どう思いますか、ゴードンさん」
「多少怪しい依頼ではあるが、ここ最近は火山も安定しているし、ドラゴンが出たなんて話もしばらく聞かんからな。兄弟たちはどうだ?」
「いいんじゃねえか?やばけりゃ戻ればいいだけだしよ」
「少々不安はありますが、今は行ってみてもいいかと」
「うむ、兄弟たちが行くのであれば儂も行こう」
「よし、そうと決まればさっそく行くぞ!」
かくして火竜山に向かった一行だった。
場所は戻り、火竜山の巨大洞窟。
広場に出たマルクは岩陰に隠れて息を潜めていた。
「なんとかまいたか?だが、レイもゴードンもいねえ。それに広いとはいえ逃げ場は無いときてやがる。状況は最悪だ・・・」
レイとゴードンは、マルクがドラゴンと出会う以前に離別してしまっている。
レイは洞窟に入った時、マグマ溜まりに身を潜めていたラーヴァゴーレムたちに捕まってしまった。
ゴードンはばったり出会してしまったサラマンダーに勝負を挑まれてしまった。
そしてマルクは二人を失った状態で洞窟の最深部に辿り着き、旧時代の姿をした紅いドラゴン、シューティングスターに出会ったのだ。
そして即座に逃げ出した。
「もう二人は確実に下山できねえし、俺もここから逃げらんねえ。それ以前に洞窟の入り口はレイたちで塞がっちまったし、どうしようもねえぞ!」
ちくしょう、なにが俺にかまわず先に行けだと悪態をつくと広場に凜とした女性の声が響いた。
「さあ、鬼ごっこは終わりだ。諦めて出てこい。そして我と闘え!」
「おいでなすったか。ご尊顔でも拝ませてもらうかね」
岩陰からそっとのぞき見ると、そこにはあの巨大なドラゴンはおらず、ドラゴンの特徴をもった女性がいた。
「まったく貴様という奴は、せっかく我が雰囲気を出そうと昔の姿になって待っていたというのに逃げ出すとはなんだ!」
そしてぷりぷり怒っている。
「これはもう、腹を括るしかないか・・・あと貴様じゃねえ、マルクだ!」
「そんなこと、今はどうでも良い!さっさと出てこんか!」
「わかったわかった!闘うから作戦を考える時間くらいくれ!」
「む!やっとその気になったか!なら、しばらく待ってやらんこともないぞ」
どこか喜ばしげなスターを尻目に、マルクは勝てない勝負をどうひっくり返したものかと頭をひねりにひねっていた。
(とはいえ、どうしたもんかね)
ごそごそと雑嚢を探るマルク。
出てくる物は萎びた薬草、飲みかけの回復薬、道中に拾った魔界銀の
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