虫取り少年はパピヨンに祟られました。

 春の真っただ中。この時期は昆虫の活動が活発になり始める時期だ。
 僕の名前はトオル。昆虫採取が趣味の小学生だ。特に気に入っているのは蝶だ。綺麗な羽。そして繊細な体。全てが美しい。

「よし! 取れた! 最高記録だ!」
 僕は虫取り網で、今まで捕まえた中で一番大きなアゲハ蝶を捕まえた。

 捕まえたアゲハ蝶に、僕は農薬を調合して作った標本剤を注射して標本にした。

 僕は捕まえた虫を標本にしたり、解剖して研究したりするのが大好きだ。今まで何匹も蝶や蛾、カブトムシやクワガタ、クモなどを捕まえては、標本にしたり解剖したりしている。

「お! あれは! スズメバチだ!」

 スズメバチと聞くと、多くの人は恐れるだろう。しかし、僕はあらゆる昆虫の生態を知り尽くしている。スズメバチが攻撃的になるのは主に巣の近くのときだけだ。巣に居るスズメバチは巣や幼虫を守ろうとするため攻撃的だが、エサを取り出ている働きバチは、こちらから刺激しない限りは積極的に攻撃してくることは少ないのだ。
 自分の場合はむしろ、虫取り網で捕まえようとすると逃げられてしまうことが多い。

「やった! 捕まえた!」
 僕はスズメバチを虫取り網で捕え、スズメバチを入れる用の試験管に入れる。

 僕は家に帰った。僕の家は田舎の農家の家だ。父親と母親と僕の3人暮らしで、実家の離れには猟師をしているおじいちゃんが住んでいる。

 僕は捕まえたスズメバチの入った試験管を冷蔵庫で冷やし、アゲハ蝶を標本の枠に入れて飾った。
 机の中から解剖用の道具を取り出し、スズメバチを試験管の中から取り出して解剖の準備をする。スズメバチは平穏動物なので、極端に熱かったり寒かったりすると行動不能になってしまうのだ。冷蔵庫でたっぷりと冷やせば、すぐには復活しない。炎天下であればすぐに暖まって復活してしまう恐れがあるが、屋内であればそんなにすぐには復活しない。

 僕はまず、ピンセットとメスを使ってスズメバチの胴体を解剖する。
 あぁ、何て精密に作られているのだろう。生命の神秘が詰まっている。そして、スズメバチのお尻から針を抜く。このぷちっという感覚がたまらない。そして針についた毒袋。これが人間誰しもが恐れる源だ。
 スズメバチを捕まえたときは、生きたまま焼酎につけてスズメバチ酒を作っておじいちゃんにあげたり、あるいは毒針を抜いて油で揚げて食べたり(まずくはないが、甲虫独特のゴリゴリとした感触は好みが分かれる。幼虫は美味しい。)、あるいは今日のように解剖して楽しんだりする。

 スズメバチの解剖に夢中になり、気づいたら夕方になっていた。
「トオルー! ごはんよー!」
「はーい!」

 丸いテーブルに、両親と僕は座布団に座って夕食を食べる。
「トオル。今日、先生から学校に来なかったって電話があったわよ?」
「・・・」
「トオル! 聞いているの!? ほら、あなたからも何か言って!」
「トオル。学校には、ちゃんと行きなさい。いいね?」
「はい・・・。ごちそうさま。」
「トオル!」
 僕は食事を終え、食器を台所へ運んだあと、自分の部屋に戻った。

 僕はあまり学校に行ってない。サボったりしても怒るのは母親ぐらいだ。父親は根っからの仕事人間で、子育てについては母親に任せっきりだ。学校の先生も別に叱ったりはしない。むしろ、自分が行かない方がせいせいするんじゃないかな。前に職員室に用事があって入ったとき、先生の報告書に僕のことが書いてあって、「性格に問題あり。将来犯罪を起こす可能性が高く、小学校での更生が望まれる」と書かれていた。それでも、僕の担任の先生はお金のために、事務的に先生をやっているだけなので、あれこれうるさくは言って来ない。授業も、ただ教科書を読んだり、算数の問題を黒板に書いて、解き方を教えて自分で解いて終わり・・・という退屈なものだ。

 そして何よりも、僕は学校に馴染めてない。昆虫が好きという趣味が他の人にとっては気持ち悪いだけなのだ。
 昆虫を解剖したり、火であぶったり、手足をもいで水の中に投げ込んだり・・・この快感が何でみんなには分からないんだろう? みんなは僕を気持ち悪がり、「マニア野郎」「犯罪者予備軍」「サイコパス」といじめられたこともあった。それでも、僕は全然気にしていない。「こいつらは自分と合わない」としか思っていなかった。
 今はそれよりも、綺麗な蝶を捕まえたり、スズメバチを解剖したり、バッタやカマキリを火にかけたり、水に投げ込んでみたい。

 次の日、僕は朝食を済ませ、ランドセルを背負って家の扉を開けた。
「行って来ます!」
「今日はちゃんと学校へ行くのよ!」

 僕は学校へは行かず、森へ行った。今日も昆虫採取をするためだ。僕は虫取り網と虫カゴを取り出して、昆虫を探した。
「こりゃ! 学
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