俺、伊勢原紘一は魔術師を目指す24歳男性だ。ジパング地方のとある国。この国では魔術師は非常に重宝される、エリートかつ魅力のある仕事だ。
俺はジパング地方の下町の育ちで、両親は花屋を経営していた。生活は貧しかったがそれが苦痛だと感じることはなかった。高校までは・・・。
地元の公立中学を卒業後、俺は都内の名門魔術学校に進学した。しかし、魔術師になるのにはお金がかかる。学費もかかるし、その他魔法道具を揃えるのだけでも大変だ。
俺が魔術師になりたいと思ったのは、小学校のときの大ヒット作小説、「7人の賢者達」という魔術師の小説を読んだことだった。この小説はページ数が多く、話も長く、文字だらけの本だったが楽しむことができた。生まれて初めて本を読むことが楽しいと思えた瞬間だったかもしれない。
進路相談の際、担任は俺が魔術師になりたいと言ったら猛反対した。担任は頭が固く、頑固で魔法や魔術といった類のものが嫌いな人だった。しかし、両親は応援してくれて、担任も「スカラシップ(返さなくてもよい奨学金)を取ることができたら推薦状を書く」と言ってくれた。
その後俺は必死に勉強して、西欧の名門魔術学校を受験し、点数100位以内(毎年3000人ほどの受験生が集まる)に与えられるスカラシップをギリギリの順位で獲得し、夢に向けての第一歩を歩みだすことができた。
だが、人生で順調だったのはここまでで、進学後は多くの壁にぶつかり、挫折と失敗を何度も経験した。
魔術がはるかに発達し、魔物娘も多くいる西欧の、それも名門魔術学校となれば、世界中から選び抜かれたエリート達が集まる。人間も魔物娘も、伝統ある名家出身の者が多く、平凡な家の出身の自分は見下された。実際、自分の成績はギリギリで、落第点をギリギリで上回るのがやっとだった。
俺は学校生活の中で、優れた血統。優れた魔物娘。特にエルフやヴァルキリー、エンジェルと言ったものに憧れを抱くようになった。しかし、反対に邪悪なイメージのある魔物娘を見下していた。今思うと、「自分は平凡な家の出身で育ちのいい皆よりも劣っている。しかし、自分よりも下には邪悪な魔物娘がいる」と勝手に自分の尊厳を保つために思い込みをしていただけだったと気づいたのは卒業間近になってからのことだった。
魔術学校の多くは5年生で、優秀な者は3年生で、大抵の人は4年生で魔術師の資格を取得する。しかし、国家資格である魔術師の資格は、そうたやすく取れるものではない。
魔術師の資格を取れないまま卒業し(魔術師資格取得はあくまで目標であって受験する義務はない)、魔術の道から脱落する者も多い。
結局、俺は在学中4度受験したが(資格試験は年に春と冬に二度ある)合格することはできず、進路先が決まらないまま卒業し、帰国した。
「なぁ、伊勢原。おまえはよく頑張ったよ。確かに何度も赤点を取って、追試を受けて、成績も下から数えた方が早かったけど、平凡な家庭のおまえが卒業までこぎ着けたのは立派なことだ。だから、どうだ? 他の進路を考えて、別の道で就職先を探さないか?」
「いえ。私は魔術師になるためにこの学校に入学したのです。まだ、あと1回卒業までに試験があります。それに全てをかけるつもりです。」
「そうか・・・。」
進路相談のときの進路担当の先生とのやり取りはこんな感じだった。結局、試験には落ちたのだが・・・。一応、先生からは「資格がない以上魔術師として進路を探すのは厳しいが、他の分野なら、多少妥協すれば中より上の企業はいくらでもある」と言われていたが、俺は全て断っていた。
(魔術師に関連した仕事は資格がなくてもなれる。しかし、採用される確率は皆無に近い)。
そして今、俺は都心から30分ほど離れた2DKのアパートでアルバイトをしながら浪人生活を送っている・・・愛すべき彼女と一緒に。
「夕飯できたわ。ここ、置いておくわね。」
「ああ。ありがとう。」
「あの・・・紘一さん。私はあなたが他の仕事に就いていてもいいと思っているわ。私はあなたと一緒ならそれでいい。」
「ありがとう。でも心配するな。今年の春こそは合格してみせる。」
彼女の名はアイリス。エルフだ。金髪のロングヘアーに青い瞳。そして透き通るように白い肌。いかにも名家の育ちのよいお嬢様という雰囲気だが、彼女もまた地元では平凡な家庭の育ちだったらしい。
彼女の出身は西欧の森で、実家は花屋らしい。
俺は思春期の頃にはエルフやヴァルキリー、エンジェルに対する憧れと自身の平凡な家系に生まれたことによる劣等感、そしてサキュバスやデーモンに対する嫌悪感の中で過ごしていた。
少しでも印象をよくするために努力もした。おしゃれをしてみたり、エルフやヴァルキリーの同級生を食事に誘ったりもしてみた。
[3]
次へ
ページ移動[1
2 3 4 5 6..
8]
[7]
TOP[0]
投票 [*]
感想