夢見るクスリ 夢への鎮魂歌

「はい。読ませてもらいました。ありがとうございます。」
「どうですか!?」
「まぁ、悪くはないと思いますが、うちの雑誌に掲載する以上、全く無名の漫画家を選ぶというのは、ちょっとね。なので、賞の一つでも取ってから、また改めてご相談いただけますか?」
「分かりました。」

 結局、俺の漫画はボツになった。

 俺の名前は宮村優介。漫画家の卵だ。子供の頃からずっと漫画が好きだった。いつか漫画家になりたいと思って、ずっと漫画を描き続けて来た。
 元々、幼稚園の頃から先生からは絵が上手だと褒められていた。小学校に上がると、人生で初めての挫折を経験した。俺は勉強が大の苦手で、嫌いだった。テストはいつも0点ばかりで、成績も体育、図工、音楽以外は全て1だった。
 友達同士ではよくお絵かきをして遊んでいて、そのうち漫画を描くようになった。友達内で俺の漫画は評判がよく、小学生を対象にした漫画のコンクールに出すことを勧められた。
 そして、俺は小学生漫画コンクールで優勝した。中学生でも、漫画部に入部し、中学生漫画コンクールで優勝したり、児童向け雑誌に掲載されたりしたこともあった。
 他にもピクシブに絵を投稿して、大きな評価を受けていた。

 俺は中学になっても勉強は苦手で、ついにはなかよし学級(障害者が集められるクラス)に送られてしまった。俺はそれが嫌で、登校拒否になった。
 友達と同じ高校を受験したが、落ちた。さらには市内全ての高校、果ては落ちることすら難しいド底辺高校すらも不合格になった。
 その後、俺は進学を諦め、漫画家を目指すことにした。

「ただいまー」
「お帰りなさい。ゆうちゃん。どうだった?」
「駄目だった。無名の人は無理だって。」
「・・・そう・・・。でも、ゆうちゃんなら賞も取れて、すぐに有名になれると思う。」
「ありがとう。」
 彼女の名前はクラシス。ヴァルキリーだ。彼女と出会ったのは中学のときで、俺は漫画部、クラシスは音楽部のバイオリニストだった。初めは接点はあまり無かったのだが、友人を通じてクラシスは俺の漫画を読み、気に入ってくれた。彼女も漫画が好きだったため、気づいたら仲良くなっていた。
 クラシスは名門高校、名門の音楽大学を卒業した。将来は音楽家か、あるいは一流企業に勤める道もあったはずだが、彼女は自分と一緒になる道を選んだ。

(こんな俺と一緒になってくれたクラシスのためにも、絶対に漫画家として成功してみせる!)

 家は2DKのアパートで、家賃は俺の両親が払っている。両親は俺のことをあまりよく思っておらず、俺が漫画家になりたいと言ったときも猛反対した。しかし、高校進学ができなくなったとき、俺は手に職をつけなければならず、両親は納得した。

 シャワーを浴び、クラシスが作ってくれた美味しい夕食を食べ、夜。俺は机に向かった。
「今度は、どんな話を描くの?」
「そうだなぁ・・・日常系の話を描こうと思っているよ。」
「完成したら、私にも読ませてね!」
「ああ。もちろんさ!」
「それじゃあ、おやすみ。ゆうちゃん。」
「おやすみ。」
 クラシスは一人寝室の襖を閉め、先に寝床についた。
 俺は持てる限りのアイディアを頭の中で巡らせながら、ペンを走らせる。

「ゆうちゃん! ゆうちゃん! もう朝よー」
「う〜ん・・・寝ちゃったのか・・・仮眠のつもりだったのに・・・」
「夜更かしばかりしていたら体によくないわ。ご飯、テーブルに置いておいたから。行って来るね!」
「ああ。行ってらっしゃい。」
 クラシスは仕事に向かった。

 クラシスは生活を支えるため、スーパーでパートをしている。俺は無職だ。世間から見たら、俺はヒモということになるのかもしれない。一応、クラシスが居ない間、家の家事は俺がやってはいるが・・・。
 前に1か月だけ、レンタルビデオ店でパートをしたこともあった。しかし、俺は物覚えが悪く、記憶力が悪くて教えられたことをすぐに忘れてしまっていた。さらに、俺は小学校で習う四則演算も、足し算と引き算がやっとで、残り2つはできない。分数の計算もできない。方程式など論外だ。結局、レジ打ちの際の会計ミスや、品出しの際のビデオの本数のミスなどが原因で、クビになった。

 前に、クラシスが買って来た脳年齢テストができるゲームでは、脳年齢は5歳。推定IQ60。偏差値12という記録が出た。クラシスは「バグっているのね」と言って笑ってごまかしたが・・・。

 俺はクラシスの作ってくれた朝食を食べ、食器を洗って食器置きに置いて乾かし、洗濯物を取り込み、漫画の続きを描いた。

 数日後。俺は書き上げた漫画をコンクールに提出したが、入賞はできなかった。
「どうだった?」
「駄目だったよ・・・。」
「そう・・・私はよかったと思ったのに・・・。」
「お世辞なんて
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