森の木々の葉もちりはじめ、何処と無く森に淋しさが訪れる頃。
「竜よ! 出てこい!!」
僕の声が森に響いていた。
今は霜月の季節。
塔に叫ぶ僕の側では、木陰の隅で野ネズミが、イソイソと木の実を口に詰めていた。おそらく、しばらくすれば降りだす雪の季節、降雪の月の冬眠に備えているのだろう。
それだけじゃない、ここ数日塔に通っただけで色々気が付いた。
暖かい気候を好む渡り鳥達は鳴かなくなり、代わりに冬鳥達が透き通る声を震わせていたり。森の木々も、葉の色も色褪せ、足元の落ち葉が多くなっていたりした。
当たり前だが、おそらくベルララと初めて会った時と比べたら、今の森はだいぶ変わってしまっている。
森が季節毎に変化して行く事は、毎年の事で当たり前の事。
でも、今の僕にとっては、森が冬の姿に変わって行く事に焦りを感じ、不安覚えていた。
時間の無い僕にとって、恐らく降雪の月を知らせる、初雪を見る前に全てが終わってしまうからだ……
しかし、僕の焦りを載せた叫びには、竜は返事を返してくれなかった。
僕が焦りをみせだして、毎日塔に来ても、あの鋼の鱗に覆われた巨体も、鋭い牙や爪も、黄金の大きな瞳も、竜は見せてくれなかった。
そして、いつも僕に答えを返してくれるのは、ベルララだけだった。
「すまない……今日も竜は居ない」
そして、ここ数日間変わらない返答。
僕は、歯を食い縛った。
別にベルララの返事に怒っている訳ではない。
ただ純粋に竜に悔しかっただけ。
竜は言った。
“我と対等になった時に、お前の前に現れよう”
と。
でも、実際は違う。
僕に宣告された寿命が近づいているにも関わらず竜は現れない。
もし、僕の力がまだ足りないと言うなら、もっと、もっと力を付けてやるつもりだ。
……でも、それは僕に時間あればの話であって、もうどうすればいいのか、僕には分からなかった。
ただ、サラさんやアキレスは焦るな(らないで)と、言ってくれるだけで、僕もその言葉を、内心は焦りながらも、受け入れる事しかできず、それが尚更悔しかった。
「ベルララ……また、来るよ」
竜が居ないと分かれば、僕が塔に来た意味は無くなってしまう。
それならば、僕は直ぐに戻り、少しでも強くなるために修行を再開しなくてはならない。
だから僕は、明日また来る意味を言葉に載せ、塔を立ち去ろうとした。
「あ……ウィリ…アム…ス」
しかし、その言葉にベルララは、寂しそうな、悲しそうな、何とも言えない表情をしていた。
僕は、少し罪悪感に苛まれたけど、ごめんと小さく呟いて、塔に背中を見せて、駆け出した。
この日も、僕は竜には会えず、ベルララの落ち込む顔を見ただけだった。
そして次の日、また僕は塔に向かった。
「やい、竜や出てこい!!」
どうせ居ないだろうと思い、少し挑発気味に叫ぶ。
もしかしたら挑発に乗って、竜が出てくるかもしれないから。
しかし、僕の叫びも虚しく、冬季が近づく静かな森に吸い込まれていった。
竜の答えを暫く待つが、返って来るのは、僕の声に驚いた冬鳥達の透き通る鳴き声と、森の囁きだけ。
やはりダメかと思い、足を一歩下げて、今日も塔に背を向けようとした時、僕の背中に声がかけられた。
「ウィリアムス……」
その声は美しいソプラノであるにも関わらず、何処か暗い声。
最近は、その暗い声ばかりを聞いているベルララの声だった。
「ベルララ……」
僕がベルララに振り返ると、ベルララは林檎を両手に抱えて立っていた。
おもむろに振り返った僕は、思わずベルララと目を合わせてしまう。
そんなベルララの黄金の瞳は、何時もより何処か輝きが無いような気がした。
その瞳は、僕を気まずかしくしてしまう。
よく考えたら、最近はベルララのあの目を見るのが嫌で、目を合わせない様にしていたからかもしれない。
今見ると、やはり何処かやるせない気持ちに襲われてしまった。
「ご、ごめんベルララ! 今日も竜は居ないんだね!」
だから僕は、ずっとこの場に居たくないと思い、直ぐにでも離れたくなった。
だから慌てて、ベルララの脇をすり抜けるように、今来た荒れた小道を早足で引き返そうとする。
「あ! ま、まて、ウィリアムス!」
しかし、ベルララが両手に抱えた林檎を落としながら僕の肩を掴んでそれを制止した。
「え……?」
僕は少し驚きながらも、ベルララに振り返った。
僕はこの時気のせいかもしれなかったが、ベルララに呼び止められた事が少し嬉しかった。
「せ、折角来たんだ……」
僕を引き止めたベルララは、口をこもらせながらも言葉を繋ぐ。
「あ、の…だな……そ、その……お茶でも、飲んでいかない…か……?」
「っ……!」
僕は言葉に詰まった。
言葉に詰まった理
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