竜と囚われの姫


ウィリアムス・ガリバーと魔法の日記


第一話……


私は、書類や本で散らばった自室で、お気に入りの椅子に腰かけ、長年かけて製作した日記に目を通していた。

一枚一枚ページをめくる、この緑色の装飾を施された表紙の日記は、私の好奇心と、趣味が作り上げた物である。
書き始めの頃に比べたらだいぶ古く、ページも継ぎ足しで、ボロボロに汚れてしまっているが、今では最高の宝物だ。
私はそんな日記に一通り目を通すと、懐かしい思い出を胸に抱きながらゆっくりと閉じた。
そしてこの日記を、手を少し伸ばすと届く位置にある、羽ペンにインク、それと手紙が散らばった机にそっと置いた。

「さて、……そろそろ頃合いかな?」

私は呟きながら、どことなく部屋の小窓を見る。
小窓からは元気な太陽の光が入り、時折気持ちのよいそよ風が吹いていた。
そして、その風に乗って家の裏手にある森から木々の香りが部屋に漂ってくる。

今日は休日。

一週間の中で、私が一番楽しみにしている日だ。
そして今はまだ、お昼には少し早い、農業を営む者達が午前作業を終えて一段落する時間帯。

休みの日の、この時間帯になれば彼は必ずやってくる。

満面の笑みを浮かべ、私のことを”せんせー”と呼びながら――――


トン、トン……

「せんせー!」

部屋のドアが鳴った……

「……来ましたか」

噂をすればなんとやら……私はそんなことを思いながら、自分の考えに思わず頬が緩み、笑ってしまった。

私は緩んだ頬を撫でるように触ると、おそらくドアの向こうで、今か今かとそわそわしながら立っている彼を待たせるのも悪いと思い、ノックに返事を返すことにした。

「……どうぞ」

私が間を取って返事をすると、彼はドアを開き、小さい体をさらに小さくし、申し訳無さそうに部屋に入って来た。

入ってきたのは一人の少年。

着ているものは上質なものだが、普段から外で活発に動いているためか肌は日焼けし、ブラウン色の髪の毛は動きの邪魔にならないように短めに切ってある。
顔立ちは両親の良いところだけを受け継いだのか、とても可愛く、あと十年もしたら誰もが認めるカッコいい青年になるだろうと、彼の周りの大人たちは期待している。

「せんせー、こんにちは……ヘヘへ」

彼は私に挨拶をすると、何が恥ずかしいのか、恥ずかしそうに笑っていた。

「はい、こんにちは、王子」

彼は、この国の王子様。

名前は、ボルス・ジェット・ブロンド。

小さくもなく、ましてやそこまで大きくもない島国、ブロンド王国の国王様の一人息子だ。
今はまだ、体も小さく体力も少なく、けど好奇心だけはいっぱいある年頃の少年。

私にとって彼と話すのが、休日の何よりも待ち遠しい時だ。

「せんせー、今日はどんなお話してくれるの?」

彼との出会いは一年ぐらい前だろうか。
私が家の裏の森を探索していたら、アラルウネの蔓を足に絡ませ、宙吊りの状態で目に涙を浮かべていた。

彼は逆さまの状態で必死にもがき、何とか脱出しようと心見たがどうしても脱出できず、痛みに我慢をしてなのか、自分なりのプライドなのか、それはわからなかったが、それでも号泣せずに目に涙を溜めながら、もがいていたようだった。

幸いな事に、アラルウネは太陽の暖かい日差しが気持ちよかったのか、お昼寝をしていた。
寝ぼけて無意識に彼の足を蔓でつかみ宙吊りにしているようで、ちょっとのことでは起きそうになかった。

私はアラルウネの彼女にお昼寝を誘った暖かい太陽に感謝をしつつ、彼に静かに近寄り、静かに言った。

“どうしたのかな少年?”

王子だと知ったのは助けた後のことだったのだが、あの時の彼は私の言葉に、僅かながらのプライドと、王子としての威厳のこもった強い口調で返してきたのだと思う。

“み、見てわかんな――”

けど私は彼に最後まで言葉を言わせなかった。
彼の逆さまになった顔の唇に軽く手を当て黙らせ、自分の口元には反対の手を、人差し指を立て小さく、そして優しく“静かに”と伝えた。

彼は素直に私の言葉に従い、口を塞いだ。

“いい子だ、あまり騒いではダメだよ、気持ちよく寝ている彼女が起きてしまう”

私は口を塞いだ彼に、彼女=アラルウネが、自らの下半身にある大きな花弁に寄りかかり、涎を垂らして寝ている様子を指をさして見せた。

“じゃあ、どうしたら”

彼は気持ちよさそうに寝ているアラルウネを見ながら、小さな声で言ってきた。
その声にはどうしたらいいのか困惑が紛れ、不安も出ていた。

しかし、私からしたら簡単なことだった。

“簡単だ、今助けてあげよう”

そう言って私は彼に笑顔を見せ、彼の足を掴む彼女の蔓にそっと、指をなぞらせた。
すると、彼女の蔓はなぞられたのがくすぐったかったのか、反応し彼の足を掴む
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