こんなクリスマスも悪くない

 今日はクリスマス。
 今年こそは彼女とクリスマスを過ごす! とか誓ったけど、結局ダメだったなー……。
 などと思いながら自宅のドアを開ける。

「ただいまー」
「おかえりーーーーーーーーー!」
「なさいー」

 玄関で小さな女の子たちが俺を出迎えてくれた。
 この家の同居人のアンリとティエリーだ。
 この二人、ぱっと見は普通の少女だが、実はゴブリンっていう、こことは違う世界の住人らしい。
 信じられないような話だが、二人の頭に生えている角を見ては信じざるを得ない。
 あれはどう見ても作り物じゃないし。
 二人は異世界で暮らしていたが、気づいたらこの家の前に倒れていたという。
 それを俺が拾って飯を食わしてやったりしたら、何やら懐かれて居着いてしまい、今に至る。
 そんな風に俺が今までの経緯を思い出していると。

「メリークリスマス!」

 アンリがニカッと笑って言う。
 あれ、クリスマスのこと教えたっけ? と思ったが、まあテレビでも観たんだろう。

「お兄さん、今日はクリスマスとかいう激アツイベントの日だと聞きました!
 なんでも愛する人に贈り物をする日だとか!」

 本当はそうじゃないが……。
 まあ日本では間違っちゃいないか。

「なので、私から愛するお兄さんへの贈り物です!
 贈り物は私のカ・ラ・ダ!
 さあ、撫でるなり舐めるなりお好きなように!」
「いらない」
「受け取り拒否!?
 そんな、お願いしますよお兄さん!
 今ならこのティッシュやら洗剤やらつけますから!」
「それは元々うちのだ!」

 アンリは俺にティッシュやら洗剤やらを奪われると、がくっと膝をついた。

「ならば私の体を」
「それもいらない」
「残念無念」

 服に手をかけていたティエリーを止める。
 二人とも何かとこうやってアピールしてくるけど、俺にそういう気はない。
 べつに嫌いってわけじゃないが……なんていうか家族みたいなもの?

「ところで、それは何?」

 ティエリーがじーっと、俺の持っているビニール袋を見て聞いてきた。

「ああ、そうだ。
 ケーキを買って来たんだ」

 俺はビニール袋からケーキの箱を出しながら答える。
 今日はクリスマスなので奮発してケーキ屋でホールケーキを買ったんだ。

「ケーキ!?」

 ケーキって言葉に反応したアンリがばっと顔を上げる。
 ケーキの箱を見る目はキラキラと輝いていた。
 さっきまで落ち込んでいたとは思えない変わり様だ。
 まあ、さっきのも本気で落ち込んでいたわけじゃないだろうが。
 あれがいつものやりとりだし。

「食べても?」

 ティエリーが聞いてくる。
 アンリと同じキラキラアイで。
 ティエリーはアンリと全然性格違うけど、こういうとこはやっぱり姉妹なんだなあって思う。

「もちろん。
 二人に買って来たんだからな」
「ほ、ほんとに?」
「ああ」

 俺が頷いてみせると、姉妹の目の輝きがさらに増していった。
 ちなみにアンリが姉でティエリーが妹だ。

「お兄さん、ありがとーーーーーーー!」

 アンリは飛び上がらんばかりに喜びを爆発させている。
 いつもは表情が変わらないティエリーも、見るからに嬉しそうな顔をしている。
 喜んでくれるだろうとは思っていたけど、まさかここまでとは。

「お兄さん」
「ん?」
「このご恩は一生忘れない」

 ティエリーが深深と頭を下げる。
 ケーキくらいで大げさだなあ……。

「この恩に報いるにはやはり脱ぐしか」
「やめれ」




 俺たちは部屋にあるこたつに入り、ケーキを食べる。
 といっても、俺は甘い物嫌いなので食べているのは二人だけだけど。

「ああ……おいしい。
 幸せはここにあったんですね」

 うっとりとした顔でケーキを味わうアンリ。
 ティエリーの方はといえば、こちらは無言でケーキを貪っている。

「おい、お前口の周りが生クリームまみれだぞ」
「ん」
「ああ待て待て、袖で拭うな。
 服が汚れるだろ。
 ほら、顔こっち向けな」

 ティッシュでティエリーの口の周りの生クリームを拭ってやる。
 こうしてると、なんか子どもが出来たみたいだなーとか思ったり。

「ほら、取れたぞ」
「ありがとう」
「もっと行儀よく食べろよな」
「うん」

 ティエリーは頷くと、再びケーキを食べ始めた。
 今度は俺の言った通り、落ち着いて食べているようだ。
 よしよし。

「お兄さーん」
「ん?」

 呼ばれてアンリの方に目を向ける。

「こんな所に生クリームがついちゃったから拭いてー!
 なるべく繊細かつ大胆、そしていやらしく」
「自分で拭け」
「えー、ずるい!
 ティーちゃんのは拭いてあげてたのにー」
「お前のはわざとだろ。
 でなきゃそんなところにつくか!
 食べ物で遊ぶな、
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