踏まれドラゴン

 冒険者の俺は山奥にあるドラゴンの巣に乗り込み、そこにいたドラゴンを倒した。

「きゅぅ……」

 さすがドラゴンだけあってなかなか手ごわかったが……ま、俺の敵じゃなかったな。

「さあて、それじゃあ……財宝をいただくとするか」

 そのために俺はわざわざこんな所まで来たのだ。
 ドラゴンは巣に財宝を溜め込むらしいからな。
 そばでうつぶせに倒れているドラゴンを放っておいて、遠慮なく財宝を探す。
 だが探しても探しても財宝は見つからない。
 仕方がないので財宝の所有者本人に聞くことにした。

「おい、起きろ」

 伸びているドラゴンに声をかけてみるが、起きる気配はない。
 なのでとりあえず……

「ぐぇっ」

 踏んでみた。
 するとドラゴンはカエルが潰れたような声をあげ、目だけをこっちに向けて睨みつけてくる。

「き、貴様……いきなり踏むか!?
 起こすにしても、まずは声をかけるとか揺するとかするだろ普通!」

「うっせ。それより財宝はどこだ? 探しても見つからないんだが」
「しかも傷つき倒れている女性を無理矢理起こす理由が金目当てとはな!
 人間性を疑うぞまったく!
 いったい貴様の体には何色の血が流れてい」
「黙れ」
「ぎゃっ」

 ぎゃあぎゃあわめくドラゴンを黙らせるべく、もう一度踏みつける。

「そんなことはどうでもいい。財宝のありかを言え」
「はっ! それが人に物を頼む態度か貴様。
 教えてほしたければ『素敵で美しいドラゴン様! どうか卑しいわたくしめに教えていただけないでしょうか』と土下座でもしてみ……おふっ!」
「くだらないこと言ってないでさっさと教えろ」
「うぬぬ……
 一度ならず二度、さらには三度もこのわたしを踏みつけるとは……この鬼畜め!
 そんな財宝財宝言ってて恥ずかしいとは思わんのか!」
「思わんね」
「ちっ……
 金の亡者に何を言っても無駄か。
 ……しかたない。いいだろう。そんなに知りたいなら財宝のありかを教えてやろう」
「最初から素直にそう言えよ。さぁ、財宝はどこだ?」
「急かすな。いいか、財宝はだな……」

 ドラゴンはそこで一旦言葉を切ると、目を閉じた。
 そして告げた。

「財宝は、お前の、心の中に」




 ……は?



「お前がここへたどり着くまでに得た経験、わたしと戦い勝って得た経験、そして今わたしとの会話で得た経験。そう、それらの経験こそが何物にも代え難い財宝……」

 そこまで言った所でドラゴンは閉じていた目を開け、ニヤリと笑みを浮かべる。

「……だろ?」


 イラッ


「うああぁぁぁぁぁーーーーーーーーー!」

 ムカついた。心っ底ムカついたので思いっきり踏みつけてやる。
 今までより強く、念入りに、グリグリと捻りも加えて。

「お前舐めてるだろ? 舐めてるよな? コケにしてるよな? あ? どうなんだよ、ええ? おい」
「嘘嘘嘘嘘冗談冗談だってぇぇぇぇーーーーーー!」

 しこたま踏みつけてやった後、一旦踏むのを止めてやる。
 足は奴の背中に乗ったままスタンバイ中だが。

「……はぁっ、はぁっ、
 ……まったくもう! まったくもうだ!
 ただのお茶目なジョークではないか!
 それが分からぬとは心が狭いにもほどがあるぞ!
 もっと心に余裕を持つべきだ」
「余計なお世話だ。
 で、どうだ?
 本当のこと言う気になったか? また今みたく踏まれたくないだろ?」
「はっ、あの程度でわたしが屈すると思ったか間抜けめ。
 あんな物、ちょうどいいマッサージでしかないわ。
 むしろ逆だな逆。貴様のなってない態度を見て尚更教えたくなくなったぞ」
「……そうかい。
 だったら今度はさらに念入りにマッサージをしてやるよ!」

 スタンバイ状態から再び踏みつけ再開!

「ああああああーーーーーーーー!
 どんな目に遭わされようとわたしは決して屈しないぃぃぃぃーーーーーーーーーーー!」




 ……などと、威勢のいいことを言っていたドラゴンだったが、あの後すぐに音を上げ白状した、が。

「無い、だと?」

 ドラゴンの口から出たのは財宝の在処どころか、そもそも財宝はここに無い、ということだった。

「どういうことだ。財宝を集めているって聞いたから来たんだぞ?」
「知るか。わたしが言ったことじゃないし。
 デマでも掴まされたんじゃないか?」
「マジかよ……」

 現に財宝が無いんだから、やはりあれはデマだったということなのだろう。
 畜生、あの情報屋め……今度見つけたらただじゃおかねえ。

「まあ、噂を簡単に信じてはいけない、ということだな」

 まったくその通りだ。その通りなんだが……
 なんでお前が偉そうにしてるんだ?
 お前にも責任あるだろ。

「っていうか、ドラゴンって財宝を集める習性が
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