ウーアシュタッドの、『午前』の 7時の鐘が鳴り響く。連続で鼓膜を揺らすその音にハッと顔を上げたエドは、作業机の上に置いてある連結時計のすべての針に目を通した。三つの連なった時計のいずれも7時ちょうどを指し、秒針がゆったりと回っている。
「しまったぁ……徹夜しちゃったかぁ……」
自覚した途端に体をだるさが襲う。だらしなく伸びをすれば腕や腰の骨がポキポキとなった。トイレに数回立った以外座りっぱなしだった体は固まりきっている。
「あー……今日は学校なのに……あー」
猛烈に、めんどくさい。買ったノートのうち一冊を埋められるほどに研究が進んだのはいいが、このだるさは如何ともし難い。
一限目が始まるのは11時から。登校時間や食事のことも考えると仮眠はできて2時間半程度か。
「……仕方がないか。」
こうなればこのまま、起き続けるしかない。幸い急ぎ提出するレポートや終わらせる課題実験などはなかったはずだ。いつも優先してそれらを終わらせる己のクソ真面目っぷりはこういう時に報われる、とエドは思う。
授業が終わったら速攻で帰ろう、そして死ぬほど寝ようと心に決めて、エドは立ち上がり洗面台へ顔を洗いに……
「あー……そーだったなー……」
スヤスヤと幸せそうに眠るティタがいた。
主人より遅く起きるキキーモラなどいるだろうか……いた。このティタの親は凄まじい低血圧で目が覚めてから2時間は夫にナデナデしてもらえないと起きれなかった。本当にナデナデが必要なのかはエドは知らない。知ろうとも思わない。
「ねぼすけな部分は引き継いじゃったんだよなー……ティタ、おきなよ、ティタ」
ゆさゆさと体を揺すってやる。うへへ〜と笑いながらよだれを垂らす姿は世間一般のキキーモラとはかけ離れているが、エドにとっては昔から見慣れたものである。
しかし、仮にもサーバントに成るべくして生まれた魔物か、少しするとゆっくりと瞳を開き、エドの顔を見て、ぱちぱちと瞬き。
「あれ、えどくん……」
「おはよう、相変わらずすぐ潰れちゃうんだね」
「わあああああああーーーー!!!」
「うわぁ!」
突然叫びながら飛び起きたティタは辺りを見回し、時計を見てきゃーーと悲鳴を上げ、自分のメイド服のシワを見てひゃーーと絶叫を上げ、どこから取り出したか手鏡で自分の顔を見ていやーーーと顔を覆い隠しながら洗面所へと飛び込んでしまった。
「……元気いいなぁ」
突っ込みどころが違う気がするが、あんまりにも変わらないティタを見て、少しだけエドも眠気が覚めた。
「う〜〜……エドくんより起きるが遅いだなんて……お恥ずかしい限り……」
「気にしない気にしない」
ウーアシュタッド流の大量の朝食……というより、一日に唯一、食事と呼ばれるイベントなわけなので朝とつける必要はないが。
ともかく、この食事はバイトの朝とは量が断然違う。厚切りのトーストが三枚に固ゆで卵、厚切りベーコン、オニオンスープは寒いディーツ地方の冬に合わせて熱々だ。新鮮な野菜を惜しげもなく使ったサラダはシャキッと素晴らしい歯ごたえ、胡椒をかけたマッシュポテトは一日の活力源でもある。
それらをガツガツと胃に収めるエドを、ポカーンとティタは見つめていた。
「凄い……作りすぎたかと思ってたんだよ。でもこれだけ食べちゃうなら一日一回なのも納得……」
「でしょ?むしろ少ない方さ……でも、やっぱりティタの料理の方が僕より美味しいな」
「でしょ〜」
そう言いながら、いれたてのホットココアにドボドボとエドは大量の角砂糖を投入する。脳みその栄養はブドウ糖だ。そのため魔術師は人一倍糖分を摂取する。
「んくっんくっ……ふぅ、甘いっ」
「こんなに食べてるのに背は伸びないね〜」
「……しつこいよ」
ニコニコと笑うティタに辛辣に当たることもできず……そもそも当たる気もないが、むすっとしながら料理を胃に詰め込んだ。
「あ〜……ねむい……ねむい……」
フラフラと、粉雪の降り注ぐメインストリートを学校に向けてエドは歩む。
エドの家から学校までは徒歩で10分ほど、なかなか近い。玄関を出て正面に巨大な魔法学校が見えるほどだ。
ティタには町の地図を書き与え近場の家具屋を教え、2段ベッドを買ってくるように言ってある。
今日明日で運び込めればなんやかんやでティタと同衾(NotSex)せずに済む、やったね。まぁそんなものは昔腐る程やったわけだが。
……一緒のベッドで寝たことがあるわけであって、性交は行っていないことを記す。
しかし、ねむい。暖かい家から寒い屋外に出たせいで、体温が奪われ余計ねむい。結局あのあと仮眠をとる気にもならず本を読んで眠気をこらえていたが、素直に寝ておけばよかったと後悔する。
冷えた指先で目頭を揉むが、
[3]
次へ
ページ移動[1
2 3 4]
[7]
TOP [9]
目次[0]
投票 [*]
感想[#]
メール登録