第2章

「どうぞ」

「……うん」

静かに、音も立てず、コーヒーを満たしたカップがキリアの前に置かれた。
湯気を立てるそれは寒い季節にはありがたい。

「はい、エドくん」

「あ、うん」

次にエドの前に、同じく。テーブルの中央に置いてある角砂糖の入った器とミルクの入ったピッチャー。家にもともとあったものだ。

「うんうん。エドくんがお客さんに出す食器とか持ってて、安心したよー」

「は、恥ずかしいからやめてよ」

椅子に腰掛けたエドの頭をポンポンっとキキーモラが撫でるように叩く。思わず最近開発した教団幹部と母親へのおしおき魔法『エンドオブアポカリプスザデッド』の詠唱を口の中で唱えそうになったが、鋼の精神でそれを抑え、コーヒーとともに胃の腑に流し込む。苦い。
コーヒーはブラックなどとだれが言い出したか、コーヒーは角砂糖3つ、これは譲れない。

「あー、エド、ボクはこちらのキキーモラの方を知らないな、是非ともご紹介してほしい」

耐えきれず、キリアはずっと疑問に思っていたことを口にした。
手首にフサフサとした柔らかそうな羽毛、尻尾も同じく、そして硬質の、ブーツのような形の蹄の足。
このウーアシュタッドでは案外見かけることの多いキキーモラと呼ばれる魔物だ。

「なにやら随分と親しそうだけども、キキーモラっていうのは突然家にやってくるのではないかな。それなのに、愛称で呼び合うとは一体どういうことだい?」

スラスラと、なるべくいつも通りのクールな微笑みを浮かべながらキリアは質問を次々と吐き出す。しかしその顔は、時折ひくりと痙攣しており動揺を隠しきれていない。

「あぁ、申し訳ありません。ぼくはキキーモラのフェリーティタス・マキシメドミーです。呼びにくいようでしたか、お気軽にティタとお呼びください」

「あ、どうもご丁寧に……」

毒気のない笑顔で、お盆を抱えたままぺこりと頭を下げられる。思わずキリアもお辞儀を返した。

「えーとですね、キリアさん。先ほどリリーミードが好物の保護者という話をしましたね」

「あぁ、それが?」

「その保護者というのが彼女の、えー、ティタのご両親でして。で、そのご両親は僕の、まぁ保護者でありまして、つまり、まぁ故郷で一緒に暮らしてた、幼馴染なんです」

「はいっ!」

「……」

ピコピコと、キキーモラにしてははしたなく、おさげの横に垂れた耳のようなフサフサと尻尾をフリフリと振りながらご機嫌よく同意する。大してキリアは顎に手を添え、顔を伏せ、深く思考を巡らせる。

「……同棲してた幼馴染だと?」

「まぁ、はい。ぼくは拾われた子でした」

「あぁ、それは知ってた、君がいつかポロリと言ってたけど……まさかな……そんなな……てっきり教会の孤児院とかで育ったとばかりおもってた……そうか……」

額に手を当てて首を振るキリア。今や頭の中はかつてないほどの速度で思考を巡らせている。エンドルフィンが猛烈に分泌され1秒が10秒にも伸びているだろう。しかしその脳内は『ヤバイ』の三文字で埋め尽くされている。

「でも、ティタ、どうして突然こっちに訪ねてきたの?」

「そうだねすごく気になるねそれ」

エドのこぼした疑問に思考の海から飛び出したキリアが食いついた。幼馴染のキキーモラがどうして突然、ウーアシュタッドのエドを訪ねてきたのか。

「それがね!ぼく、お母さんに認められて、使えるご主人様を探していいって言われたの!で、ぼくは昔っからずっと、エドをご主人様にしたいって思ってたし、だからきちゃった!」

「そ、そう」

「お、おう」

ありふれたよくあるキキーモラの思考回路である。ケチの付けどころもないだろう。エドは照れくさいのか頬を染め、キリアは純度100%の、RGBにしてオールゼロの真っ黒い影を背負っている。

「ライバルが手ごわすぎるだろう……なんだよそれ、幼い頃からともに過ごしたキキーモラとか、ヤバイだろ、つよすぎるだろ、どうするボク、まずいぞボク」

ぶつぶつとつぶやいて再び思考の海に沈んでいったキリアを尻目に、エドとティタは話を弾ませる。

「ふふ、エドくんがブリュームヘンをでて三年も経ったね……背は、ますます離れちゃったねー」

「う……ぼ、僕だって背を伸ばそうと頑張ったけどそれだけは……」

「でも、エドくんは偉いね。コセンド魔法学校って、すごく授業が厳しいんでしょ?それなのに、お部屋はしっかり片付いてるし、ご飯も栄養のあるものを自炊してるし……ぼく、すごく嬉しいよ」

「ティ、ティタにいろいろ教えられたからね……」

「うんうん、えらいえらい」

「子供扱いしないでよ……」

ポフポフとまたもや頭を撫でられるエド。なにやらまんざらでもなさそうだ。これはヤバイ。ものすごくヤバイ。恋敵に遠慮はいらぬとキリアは目を
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