第1章

ウーアシュタットに住む者のほとんどは時間に正確である。遥か上空、大きく影を落とす短針が6時街の真ん中を刺した頃に大人たちは目を覚まし始める。
一晩中愛し合っていた夫婦は心地よい気だるさに身を任せお互いを抱き合いながら目を閉じる頃だ。

今日もまた、6時街の真上を短針が覆う。それと同時に、小さな、しかしウーアシュタットのすべての場所に響く心地よい鐘の音。なるのが一度きりなのは今がまだ日が昇って間もないからか。
その音を聞いて、エドガー・ウォンクは本に落としていた視線をあげて、窓の外を眺める。

「……ん、そろそろ」

少しズレたモノクルの位置を直し、纏っていた青いローブに手をかけ、脱ぎ捨てる。
部屋の中とはいえ季節は冬、ディーツ地方の冬はとても冷えて、魔法の保温がなされたこの部屋でも、肌着一枚になると肌寒さがチクチクと刺さる。

「……これかな」

クローゼットのハンガーにローブを吊るし、代わりに中から取り出したのは柔らかなオレンジと白のストライプ模様のシャツだ。
行儀悪く頭からそれをかぶる。ボタンは胸元が二つほど外れていたが、すぐに一つ留めた。
履いていたズボンも厚手のものに取り替える。

「行ってきます」

一人暮らしではあるが、言っておく習慣をなくしたくないエドガーは、部屋の明かりをすべて消して、まだ仄暗い街の中へと歩みだした。





街中を歩くものがいつもより少ないのは、休日だからだろう。
人も魔物も勤勉なものが多いウーアシュタットでは、他の親魔物国家、あるいは魔界と比べると、仕事に……『理由はなんであれば』熱意を燃やすものが多い。
広い領土を誇るウーアシュタットの城壁の内側で、あるいは衛兵として、あるいは医療に携わるものとして、あるいは娼館に勤めるものとして、そしてあるいは、魔法を学ぶものとして……

そんなこの街ウーアシュタットでは、休日の早朝と夕方から深夜にかけて、途端に人通りが少なくなる。理由は、『一週間しっかり働いたんだから、休日はイチャイチャしたい!』というものだ、つまり今頃多くの人々は、暖かい家の中でしっぽりとヤっているのである。

そんなお相手のいないエドガーは薄く雪の積もった7時街のメインストリートを、8時街寄りに少し外れた道をずんずんと進んでいく。
さほど歩かないうちにまだ『閉店』と札がかけられた店の前で足の動きを止め、その店の裏に回り込んだ。裏口の戸は、空いている。

「おはようございまーす」

少しの躊躇もなく戸を開く。返事はない。


「……はぁ、またか」

どうやら、『今日も』エドガーが朝食を準備しなければならないらしい、バイトの内容にそんなものが含まれていただろうか。
抱えたカバンからバンダナを取り出し頭に巻きつけ、簡素な前掛けを腰に巻く。

上の方からギシッギシッときしむ音がする。

「えーと……」

魔界産のキャベツをよく洗い、適当な大きさにちぎる。それを皿に盛り、その上に色とりどりのカットした野菜を盛り付ける。仕上げは店の特製ドレッシングだ。

あんっあんっと、甲高い声が聞こえてきた。

「ったく……」

次に、卵とベーコン。熱したフライパンに油を引いて、卵をさっと投入、まだ固まっていない白身にベーコンを添えて、塩胡椒。
エドとしては両面焼き(ターンオーバー)のほうが身が引き締まって好きなのだが、この店の夫婦はトロッとした黄身を味わえると、サニーサイドアップが好みなのだ。
作業を三回繰り返し、完成したベーコンエッグを三枚の皿にフライパンから滑らせて載せる。

<あぁ〜っ!いいよ、いいよあんたぁ!

「……」

<おう!出すぞ!奥に出してやるからな!

「……はぁぁぁぁ」

深くため息をついて、今度は食パンを取り出す。均等な長さで切り落とし、バターを塗ってフライパンへ。両面を香ばしく焼き上げて、バタートーストが出来上がる。数枚のそれを、大皿の上へ。

以上の三品を店のテーブルに置いて、ホルスタウロスのミルクをコップに注ぎ、準備は万端だ。
そしてちょうど、奥の階段からドスドスと大きな足音が響いてくる。

「やぁすまんすまんエド!ちょっと昨日から夢中になりすぎてた!」

そして姿を現したのは、ギンギンのイチモツを隠そうともしない大男だ、腕にはもう何の液かもわからないものでベットベトになったサラマンダーを抱えている。

「はぁ……店長、隠して、見たくもないですよ、それとさっさと風呂に入ってきてください」

「沸かしてくれたのか?」

「沸いてませんけど、まさかその有様で食事を取る気ですか、あまつさえ料理を作る気ですか」

「相変わらず冷たいやつだな、ほれ、アマンダ、起きろー、風呂入るぞー」

店長と呼ばれた男はゆさゆさと抱えた女を揺すりながら風呂場のほうへ歩いていった、女のほうはうーとかお
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