町への買出しも済み、自室に足を踏み入れると
「あっ」と声が漏れるほど凄惨な部屋へと様変わりをしていた。
元々綺麗な部屋ではなかったのだが、
飛び散ったインク、舞い散る鱗粉、淡く残り光る魔力の残滓…
これらの要素が部屋の異常性を掻き立て彩り演出し…
危険を察知した右足は自室の床を踏みしめる事無く後退、外の土を踏む運びとなった。
そのまま右足の動きに合わせ身体も後退、ドアも後退させ閉めて施錠。
ようやくひと呼吸できる状況といったところか…。
あれは…
あれは、おそらく人外の仕業とみて良いだろう。
部屋を荒らす…といったらハーピーだが…あの鱗粉は…あの魔力の跡は…
十中八九妖精のイタズラと見ていいだろう。
あぁ…ここも妖精が出る時期になったか。
確か…と庭の片隅に目を向けるとミントの束が、あぁあった。
手掴みで適量を採り、バケツに放り込んでマッチで燃やす。
独特の青臭さと歯磨き後にも似た爽快さをわんさか吐き出すそれを
ドアから自室に投入、後は待つだけだ。
知り合いの冒険者曰く、ハーブは魔除けになるらしい。
どうにも魔物娘はミントの香りを嫌がるのだとか。
"スッキリ爽快でムードも何も無い"
"乱れ爛れた淫らな気も失せる"と酷評だとか。
しかしそのミントの香りをぶつけられるが如く嗅がせられたら
誰だって淫らな気にもならないものだ。
そして、そのミントを身体も小さく淫らな淫気で惑わすタイプの妖精に使ったら………
よし、窓から出てきた。
壁越しに森へと帰る妖精を確認すると…1匹、2匹…。
と、なかなか数が多い。
もしあのまま部屋の中に入っていたら…と思うとゾクッと背筋が…。
そのまま妙にしゃんとした飛行で帰って行く妖精を見送ると、
今度は自室のクリアリングに移行する。
ドアを開くとやはりというか蒸せ返るようなミントの香り。
これは、焚きすぎたか…?と足を踏み入れ見渡すと…おや、何かがおかしい。
歩くたび何か、部屋の物が揺れるような…動くような…高くなるような…。
………うっ、これはアレか。縮小の魔法か。
確か…妖精の中には人間を小さくして弄ぶ魔力を持った
ピクシーと呼ばれる種がいるらしい。今回部屋に居たのはピクシーだったのか。
幸いまだ縮小の魔法にはかかりきれておらず、
ジリジリと部屋の中で舞い散る鱗粉が身長を削っているだけで余裕はある。
と、すると次にやる事は部屋の換気か。
息を吸わず、床に這った鱗粉を飛ばさずすり足で…
かといって身長をこれ以上削り取られないよう素早く。一方の窓を開ける。
部屋にあるもう片方の窓は既に妖精が開けて行ったのでこれで換気ができるはずだ。
そのまま箒を握り締め鱗粉を手早く外にパタパタとはたき出す。
ミントの香りの換気にもなれて丁度良い。
外界に出る鱗粉は…人間にとって有害なものだが…拡散されて薄まっているのだ。
身長が一時的に数ミリ程度低くなるだけのものであろう。大丈夫…だと思う。
換気も済み、鱗粉も姿を隠し、身長の削りも止まってようやく事が片付いた…
といったところか。
削られた身長は…頭2つ分小さくなったようでおそらく110cmちょっと。
立った状態で机が胸辺りに来る程度だ。
外で小さくなってたら大変だったが…今は室内。
一時的な縮小なのでおそらく一晩眠れば回復する事だろう。
夕食は…買って来たパンとリンゴでいいか。
妖精騒動も解決し、
ひと心地するとどっと疲れが湧き上がって来た…ので、ベッドによじ登り横になる。
とすると、なかなかに居心地が良い。
元の身体より小さい身体だからかベッドがデカく…転がっても落ちる事はなく
ベッドが転がる身体を受け止めてくれる。
あぁ…いいなぁ…王様のベッドみたいだ。
ベッドは大きければ大きいほど解放感が湧くのか、
どうかは分からないがベッドの上で転がり回るのは楽しい。童心に帰ったみたいだ。
あぁ…いいなぁ…ベッドが大きくてここまで気持ち良いなら
ピクシーの鱗粉集めておけばよかった。今度出会う事があれば交渉してみようか。
と、とりとめなくゴロゴロ…ゴロゴロ…としていると
カサッと足の先端に当たる物があった。
おや?なんだろう?と見てみるとわら半紙が2枚置いてある。
こんな所に置いたかな?と手に取ってみると…
ああ、これが飛び散ったインクの正体かと合点がいった。
そこには、妖精の魚拓が押されてあったのだ。
いや…
魚拓…というより妖精拓か…?
まぁ…いいか。どうやら妖精達は皆何を思い付いたのか
全身にインクを塗りたくって藁半紙に自分から魚拓を押しに行ったらしく
個々の魚拓に個性が見える。
胸の魚拓もあるな…。
一見アホの様にも見えるがそこは魔物娘、
おそらく自分の身体の魅力を伝え、同時に仲間内で競い合いをしたかっ
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