へぇ! それじゃあアンタは、あの有名なアカデミーの学生さんなのかい!?
なら、末は博士か大臣かって感じだな。
いやいや、そんな謙遜なんかしなさんな。
だって、アレだろ?
年齢、性別、思想信条、その他諸々の要素を問わず、あらゆる者を受け入れる中立国家の最高学府。
卒業生には偉人、英雄、豪傑はもちろん、世の人々から全力で唾を吐きつけられる大悪人までズラリと勢ぞろい。
入学するのも卒業するのも極めて難しい、“天才の聖地”。あるいは、“廃人の産地”。
……ってヤツだろ?
あぁ、知ってる知ってる。アンタの学び舎は、この国でも十二分に有名だよ。
それで、そんな凄いアカデミーの学生さんが、こんな食堂のすみっこで何やってんだい?
そっちからこの国まで来ようと思ったら、それなりの長旅になっちまうだろう?
ふむ……あぁ、へぇ〜。
秋季休暇を利用しての一人旅、ねぇ。
さしずめ、アレかい? “親魔物国家をぐるりと回って見聞を広め、後の学問と人生に役立つ何かを見つけることを目的とした、旅という名の野外調査”って感じかい?
ほぉ、だいたいそんな感じ、か。なるほどねぇ。
いや、感心感心。絶対に大事だと思うよ、そういうの。
自分の知らない物事や価値観に触れるっていうのは、すごく意味のあることだから。
特に、若いうちは体も元気だし、何より頭と心が柔らかいからね。
時に慎重に、時に大胆に行動して、色んなことを経験すれば良いよ。
ん? あぁ、俺かい?
俺は、この街にねぐらがある、しがない行商人さ。
女房と一緒に魔界豚の背中に乗って、香辛料の類をあっちこっちに売り歩いてるんだ。
女房は……ほら、あっちのカウンターの方。フェアリー達が集まってお喋りしてるだろ?
あの髪を紺色のリボンで結んでるのが、俺の女房さ。
五年くらい前に、行商先でフェアリー・ハグって触手に捕まってる所を助けてね。
あら……こっちの視線に気づいたのかな? 手ぇ振ってら。ハハハ、可愛いだろ? いつも元気で明るい、自慢の女房なんだよ。
それにしても……今日はいつにも増して混んでるなぁ、この店。
最近、有名な美食案内本に取り上げられたって話は聞いてたけど、宣伝効果バツグンだなぁ。
うん、そうなんだよ。ここは何を食っても本当に美味くてね。
人間の大将とウシオニの女将さんの二人で切り盛りしてたんだけど、今じゃ忙しくなっちゃって従業員が三人もいるよ。
贔屓の店が有名になって嬉しいような、寂しいような。常連客としては、複雑な気持ちだねぇ……料理もなかなか来やしねぇし。
でもまぁ、そのおかげでアンタと相席になったんだから、これも一つの縁なのかね。
あぁ、いきなり話が変わって悪いんだけどさ。
アンタ、反魔物国家の方には行かないのかい?
確か、アカデミーのある中立国家は、大きな海峡を挟んで武闘派の反魔物国家と向かい合ってたろ?
……ふ〜む、そうかい。
来年の春季休暇では、そっちの方を旅する予定なのかい。
うん、やっぱり感心感心。
この世界の形を知りたいと思うんなら、あっちこっち色んな所に行ってみないとな。
あぁ……それじゃあ……ふふふ。
来年に向けてのお楽しみって意味も込めて、ちょっとした話をしてあげようか。
ここ最近、俺みたいな行商人の間で、まことしやかに囁かれてる話さ。
あまり気分の良い内容じゃないかも知れないけど、『この世界にはそういう部分もあるんじゃないか』って思うような、ドロリとした噂だよ。
この世界は地獄ではないけど、天国って訳でもない。
悪い奴ばかりではないけど、良い奴ばかりで構成されてる訳でもない。
中には、時には、「お前は最低だな」って宣告したくなるような連中もいる。
これは、そういう連中と、そいつらが辿る末路についてのお話さ……。
とある反魔物国家の都市に、連続強姦魔が現れた。
その犯行の手口は、単純にして残忍。
人通りの少ない道を歩いている女性に忍び寄り、背後から全力で殴り倒した上で陵辱する。
十二日の間に七人が襲われ、そのうち二人は意識不明の重体……。
そんな事件の内容は瞬く間に知れ渡り、都市に暮らす女性達は皆恐怖して、家の中へと引きこもった。
無理もない。
犯行現場は、貧民街から高級住宅街まで様々。事件の発生時刻も、早朝から深夜までと様々。
加えて、標的となった女性達の年齢も、十代から五十代までと様々。
つまり、いつ、誰が、どこで襲われるのか、全くわからない状況だったのだから。
とはいえ、いつまでも家の中で震え続けている訳にもいかない。
優雅な貴族階級ならばいざ知らず、一般層や貧民層に位置する女性達には、日々の務めというものがあるの
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