『我ら、戦を望まず。
武力によって他国を侵略、征服する意思を持たず。
また、そのための装備を持たず。
永遠にこれを放棄するものなり。
されど、我らの胸には、この国土、国民を守り、愛す心あり。
不当なる要求、侵略、征服の企てと行動に対しては、武力を持って正当に応ずるものなり。
我ら、自衛のための意志と力を認め、これを保持するものなり。
加えて、我らは朋友、同盟国との絆を重んずるものなり。
彼らが侵略者と戦い、国を守り、血を流す時は、我らもその苦しみを同じにせん。
我ら、友の苦境に己の力を貸す者なり。
また、友が正しき道を外れた時は、明確なる意志と態度にて、その誤りを正すものなり』
親魔物国家である、我が国の憲法。その“戦と武力の条”の文言です。
侵略のための意志と力は持たない。
けれども、正当な自衛権と同盟国の窮地を救うための力は、きちんと保持する。
何故ならば、私たちにはこの国を愛し、この国に暮らす人々を守りたいという、強い思いがあるのだから……。
この簡潔で自然な条文を表すように、我が国には陸・海・空・魔術という、四つの騎士団が存在しています。
本章では、この国の平和と安全、そして未来の為に努力する騎士団員の方々に焦点を合わせてみました。
存在することは、知っている。だけど、その詳細は知らない。
そんな近くて遠い存在である彼ら、彼女らの声と歩みに、意識を向けていただければ幸いです……。
《 空の騎士団所属 : 幼馴染の竜騎士とワイバーンの話 》
【各機、射出番号確認しろ! 整備員は、退避急げ! 射出、一分前!】
装備品の最終確認を済ませた整備員が、これから出撃する『二人』を見上げる。
深い緑に輝く、飛竜の鱗。
静かな銀の光を放つ、竜騎士の鎧。
そして、二人をつなぐ、使い込まれた焦げ茶の手綱。
それぞれが放つ荘厳な美しさに心を震わせながら、整備員は小さく敬礼し、叫んだ。
「装備、全て問題なし! ご武運を!」
その言葉を受けた竜騎士が、相棒の上から軽く手を上げて応える。
「おうっ、任されて!」
それに続くように、巨大な飛竜が『グルル……』と喉を鳴らす。
「じゃあ、行ってみようか。射出魔法陣、その中央へ進め」
整備員の退避を確認した後、竜騎士が穏やかに告げる。
飛竜は何も言わず、ただ重い足音だけを残しながら、その指示に従う。
【一番機、状況知らせ】
魔法拡声器から響く声に、竜騎士が左腕を上げる。
【了解。状況良し。一番機、射出五秒前、四、三……】
飛竜が翼を広げ、グっと姿勢を低くする。
その動きに合わせて竜騎士も体勢を整え、両手で手綱を握りしめる。
【二、一……】
魔法陣がキンキンと高音を響かせながら、青紫色に輝く。
美しさと禍々しさを併せ持った紋様が、飛竜と竜騎士を包み込む。
しかし、『二人』の意識と視線は、ただ前へ。
開け放たれたゲートの向こう。そこに広がる、青空へ。
【射出!!】
怒鳴るような号令。
次の瞬間、飛竜と竜騎士は旋風よりも速く、鋭く、撃ち出される。
塵や埃が舞い上がり、大砲の一斉発射にも負けない轟音が周囲の空間を震わせる。
だが、飛び出した彼らにそんなものは関係ない。
竜騎士は歯を食いしばり、自分の体重の何倍もの衝撃を受け止める。
一方、飛竜は『ガアァァァァっ!』と雄叫びを轟かせ、ただひたすらに上空へと突き進む。
(こっちは毎度毎度 必死だってのに、ご機嫌だなぁ)
竜騎士は……彼は、知っている。
相棒である飛竜の……いや、妻である彼女が発する、どこか楽しげなその声の意味を。
彼女は、こう言っているのだ。
「やっぱり、これ最高! おへその辺りがキュンキュンしちゃうね!」
竜騎士専用の特殊な兜の下で、彼は苦笑いする。
何時まで経っても、自分はこの子には敵わないんだなぁ、と思いながら。
「子供の頃の俺たち、ですか? う〜ん……典型的な田舎のガキンチョって感じですかね。俺も彼女も、朝から晩までワーワーギャーギャー言いながら走り回ってましたよ」
騎士団基地の会議室。
竜騎士用の鎧ではなく、空の騎士団の制服に身を包んだ彼が、照れくさそうに言う。
その横で、同じように巨大な飛竜の姿ではなく、八重歯が印象的な可愛い乙女のそれになった彼女が、クスクスと笑う。
「私たちが生まれ育った村は、山岳地帯の谷間にあってね。本当に小さな村で、他に同じ年頃の子供も居なくて……必然的に、私と彼はず〜っと一緒に遊び回ってたってワケ」
彼女の言葉に、彼は「そうそう」と頷いた。
農業と林業を営む、山の谷間の小さな村。
いや、これでは少し言葉が足りないかも知れない。
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