第零章 出会いについて、少しだけ詳しく

ざいましたぁーっ!」と叫び、何故かあたたかい拍手と笑いを引き出す。

 ……などなど、この他にも山ほど色んな事を仕出かしていました。

 で、次に意識と記憶が繋がった時、僕はマンティスさんの寝床の中にいました。
 突然ですね。急展開ですね。意味がわかりませんね。
 はい、だって僕自身にも何が何だかサッパリわからないんですもの。

 とにかく、「いっそ殺してくれ」と思うほど気分が悪く、頭が痛く、全身が重く、どうにもこうにもならないんです。冗談でも何でもなく、指一本すら動かないし、呻き声すら出せないんです。

 「あぁ……俺、これ、死ぬのかな?」と、本気で命の終わりを覚悟しかけた時、歪む視界の中に、無表情なマンティスさんがひょいと現れました。

 マンティスさんは、僕の顔をじ〜っと見つめた後、恐ろしく苦くてドロリとしたものを口の中に流し込んで来ました。
 通常ならば飛び起きたり吐き出したりする場面ですが、その時の僕はなされるがままにそれを飲み下し、心の中で「……マズい」と呟くだけでした。

 後々に、親類や友人知人から教えられたところによりますと……そのニ。

・二次会終了後、「家まで送るから」と心配する親類を振り切り、一人で帰宅しようとする。当然のごとく、芸術的なまでの千鳥足。
・その後、見事に道を間違え、家のある方向ではなく森の奥深くへと突き進む。
・運が良かったのか、それともあまりにも酒臭かったからか、森の魔物さんに襲われることもなく、マンティスさんが住処とする洞窟へ到着。
・狩った獲物の解体作業中だったマンティスさんに「ただいま〜♪」とご機嫌で声をかけ、糸が切れたようにその場で爆睡開始。
・マンティスさん、あまりにも突然の出来事に硬直。

 皆さんも御存知の通り、未婚のマンティスさんは産卵期にならない限り、人間の男に興味を示さない魔物さんです。
 けれども、そのマンティスさんは僕を三日間にわたって丁寧に介抱し、家まで送り届け、その後もしばしば遊びに来てくれるようになったんです。

 そうして出会って三ヶ月が経った頃に僕から告白し、恋人同士となり、現在は夫婦になりました。
 で、訊いてみたんです。あの日の出来事と、その後の彼女の行動について。
 彼女はしばし考え込んだ後、小さな声でこう言いました。

「あの時は、本当に、驚いた。放っておいたら、こいつ、死ぬなって思った。でも、何か、憎めなくて……心の中がチクチクしたから、助けて、そのあとも、様子、見に行ったの」

 そう言って彼女は、ほんの僅かに微笑んでくれました。
 僕は何だか堪らない気持ちになって、ぎゅっと彼女を抱きしめてしまいました。
 すると……彼女は、僕の耳元でこんな風に呟いたんです。

「でも、もう、酒、呑んじゃダメ」
「う……はい。わかりました。断酒します」

 ということで、現在の僕はお酒と縁を切った生活をしています。
 彼女との約束を守って、ちゃんと長生きしたいですからね。
 ……あと、みなさんは僕の真似をして、酔っ払った状態で森に入らないように。
 僕の場合は、あくまでも極めて珍しいケースですからね。本当、危ないですよ?



・ヴァンパイアを妻に持つ男性
 私の妻は、元人間。
 それも、とある反魔物国家の勇者だった人物です。

 ……と、こんな風に書くと「ヴァンパイア討伐に失敗して血を吸われたのか?」と訊かれそうですが、そうではありません。
 彼女は自らの意思で、とあるヴァンパイアと人間の夫婦のもとへと赴き、語り合い、考え抜いた末に、【人であることをやめる】という決断を下したのです。

 彼女は、勇者として生きるには優しすぎる女性でした。
 反魔物国家の勇者でありながら、人間の命と魔物の命を平等に捉え、慈しむことが出来てしまう、そんな人だったんです。

 世の中では往々にして、優しく素直な人ほど苦労してしまうものです。
 残念ながら彼女もその例に漏れず、『勇者としての自分』と『一人の人間としての自分』との狭間で苦しむことになりました。

 人も魔物も、神が創りたもうた大切な命です。
 きっと私たちは、わかり合う事ができるはずです。
 だから、偏見を消し去り、差別を拭い去り、共に手を取り合って生きて行こうではありませんか。

 ……親魔物国家では、当たり前の考えです。
 しかし、反魔物国家でこんな事を口にすれば、即座に投獄され、その日のうちに打ち首になってしまうでしょう。
 彼女は悩み、考え、悶え抜きました。
 そして、縋るような思いと共に、一つの賭けに出たのです。

 僕と彼女の母国である反魔物国家と、隣国の中立国との間に広がる、大きな森。
 その奥深くにある、古びた館。
 そこには、長い時を生きるヴァンパイアとその夫が暮らしていました。

 彼女は一切
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