第零章 出会いについて、少しだけ詳しく

ると、素敵な花嫁さんに化けて現れるかも知れませんよ?



・バブルスライムを妻に持つ男性
 スライムの里。
 旧魔王時代から様々な種類のスライムたちが生息し、人間と不思議な共存関係を築いて来た村。
 ……私の故郷は、そんな風に呼ばれています。

 みなさんは、こんな言い伝えをご存知ではないですか?

 ある時代、人間になることを夢見る、清らかな心を持ったスライムがおりました。
 スライムはふとしたきっかけから、確固たる信念と無限の優しさを持つ勇者と出会い、ともに旅立ちます。
 彼らは、数多の苦難に屈すること無く勇敢に立ち向かい、ついに悪を倒しました。
 その偉業に感動した神は、スライムの願いを聞き入れ、夢を叶えてあげることにしました。
 すると、どうでしょう!
 スライムは、誰もが見惚れるような、見目麗しい乙女になったではありませんか!
 そうして、乙女と勇者は深く愛し合い、緑豊かな土地に自分たちの家を立て、末永く幸せに暮らしましたとさ……。

 実は、その乙女と勇者が切り開いた土地が、私の故郷の始まりとされています。
 だから、いつの時代もスライムと人間が仲良しなのは、当たり前なんですね。

 私と妻は、この土地で農業を営んでいます。
 少し具体的に言うと、農薬の類を一切使わない、有機農法というやつです。

 有機農法は、通常の農業以上に土や水の管理が大切なのですが、我が家ではその仕事を妻が担当しています。
 周囲の環境に反応したり、順応したりするバブルスライムの特性を生かして、人間の私では察知できない、極々些細な現象も的確にキャッチしてくれるんですよ。

 そう言えば、都会の下水道などに住むバブルスライムは、とことん強烈な悪臭を放っているそうですが……私の妻は、季節に応じた花の香を放っています。
 本当、妻から漂う匂いで、四季の移ろいを感じられるほどなんです。

「あ、この香りは……そっか。もう夏なんだね」
「ふふふ……」

 そんな会話を交わしながら、今日も二人で水と向き合い、土を耕しています。
 六年前の初夏、花畑の真ん中で太陽の光を浴び、翠玉のような体を輝かせていた妻に一目惚れして以来、私の毎日は素晴らしいものになりました。

 スライムの里の名に恥じぬように。
 そして、ともに歩み、友情と愛情の歴史を紡いで来た、人間とスライムのご先祖様たちに褒めてもらえるように、これからも一生懸命生きて行きたいと思います。



・ゆきおんなを妻に持つ男性
「大きくなったら、わたしをあなたのお嫁さんにしてください!」
「うん、いいよ! ず〜っと仲良しでいようね!」

 五歳の春に、二人で交わした約束。
 ボクとカミさんはその約束を見事に果たし、毎日を幸せに過ごしています。

 ボクたち夫婦が生まれ育ったのは、この国の北部。
 豪雪地帯にひっそりと佇む、小さな村です。
 人から「何がある村なの?」と訊かれても、「雪と自然。以上!」と元気よく答えるしかないような、そんな所です。

 なので、村民は年齢・性別・種族に関係なく、みんな仲良し。
 ボクの両親とカミさんのご両親も親友同士の関係で、それゆえにボクたち二人は、まるで双子の兄妹ように一緒に育てられてきました。
 ……まぁ、後々に判明することなのですが、ボクたちが三歳になった時点で、双方の母親同士が、「この子達を夫婦にしちゃいましょう! きっとお似合いの二人になるわ!」と結託していたそうで。
 ボク自身も子供心に、「きっと自分は、この子と結婚するんだろうなぁ」と思っていましたが、いやはや、ものすごい母親たちに囲まれていたものです。

 時々、友人知人から「自分たちの未来を疑ったことはないの?」と訊かれることがありますが、
その答えは、「ありません」の一言です。
 大きくなり、思春期を迎えたボクは、料理人になるという夢を抱きました。
 そして、全寮制の料理学校へ入るために村を出る……そんな大きな決意を固めた時も、自分たちの未来の形は『幸せな夫婦になる』という、ただそれだけだと思っていました。

 その理由は、いついかなる時も、ボクの傍らにカミさんがいてくれたからです。
 ボクの夢を知った時、カミさんは迷うこと無くこう言いました。

「では、私もそこへ参ります。あなたのいる場所が、私のいる場所。あなたの目指す夢が、私の目指す夢。あなたが学校へ入るのならば、私もそこへ入ります。ともに学び、ともに料理人になりましょう。それが私の、あるがままの気持ちです」

 ボクにとっての未来が一つであったように、カミさんにとっての『あるがまま』とは、二人で一緒に生きていくということだったんですね。
 結果、僕たちはともに村を出て、ともに学んで、ともに料理人資格を取得して、この街に小さな店を開きました。

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