あなたと私の、カルセオラリア

 上司が有能で朗らか人ならば、毎日の仕事はとても楽しいものになるだろう。
 逆に、上司が無能で嫌な奴ならば、毎日の仕事は拷問に近いものになるだろう。

 僕が勤める小さな小さな出版&編集社のボスは、とても有能で、美人で、博識な女性だ。
 だからまぁ、日々の仕事は楽しくてやりがいもあるのだけれど……少々、問題もアリで。

「早速、紹介するわね。この子が、リリー。見ての通り、誇り高いアマゾネスの女の子よ」
「リリーだ。しばらくの間、世話になる」
「あ……はじめまして。その……よろしくお願いします」

 取材旅行先から、アマゾネスの女の子を連れて帰って来るボスって、どうなんでしょう?

「あ、それと、リリーは今日からあなたの家にホームステイするから、よろしくね♪」
「は!? ホームステイ!? ちょ、ちょっと待ってくださいよ、ボス!」
「それが、なかなか待てないのよねぇ。また明日から、取材旅行に出かける予定だから」
「……今度はどちらへ、どの程度の期間?」
「今度は東へ、期間は未定よ♪」

 何を隠そう、この会社はボスと僕の二人で運営されている。
 つまり、ボスが長期の取材旅行に出ていくという事は、その間の雑務から重要な業務に至るまでの全てを僕が担当する事になる訳で。

「ほらほら、そんな顔しないの。心配しなくても、リリーがある程度の仕事を手伝ってくれるから」「え……?」 

 ボスの言葉が信じられず、思わず彼女……リリーの顔を凝視してしまう。
 美少女と呼んで差し支えない、整った顔立ち。強い意志を感じるこげ茶色の瞳と、日焼けした肌。それと同じ色の髪は短く切られ、そこからエルフを連想させるような尖った耳が飛び出している。
 さらに、右の側頭部から前頭部を覆うように生え出した独特の形状の角が、彼女の内側に宿る『人間とは異なる何か』を明確に表現していた。

「問題は無い。私は父から、語学や数学に関する教育を受けている。業務の手伝いは、出来る」

 僕の視線に、リリーはハッキリと答えた。
 「そうそう」と頷きながら、ボスがそれに続く。

「彼女のお父さんは、学者さんだったのよ。だから、彼女の教養レベルはバッチリって訳。もちろん、アマゾネスらしく武術の腕も一流よ。ね?」

 リリーの肩に手を置き、何だか嬉しそうな様子のボス。
 そんなボスときちんと視線を合わせ、深く静かに頷くリリー。
 その様子から、二人の間に明確な信頼関係が出来上がっている事はわかったけれど……。

「すいません、ボス。もう少し詳しく、事の経緯を説明してくれませんか? 例えば、その……どうしてアマゾネスのリリーさんが、住処を離れてここにいるのか、とか」
「敬称は要らない。私の事は、呼び捨てで良い」
「あ、はい……すいません」

 堂々とした態度でそう告げるリリーに、思わずぺこりと頭を下げてしまう。
 そんな僕達二人のやり取りを愉快そうに見ていたボスが、笑いながら口を開いた。

「ふふふ、あなた達なかなか良いコンビになりそうね。それじゃあ、簡単に説明しましょうか」


古い友人が長を務めるアマゾネスの集落に長期滞在をして、体当たり取材を敢行。

その中で、学者だった父と武芸百般の母を持つリリーと出会い、色々な話をするようになる。

集落の長は、かねてからより効率的な狩り、物資の調達、集落の運営方法を模索していた。

「どうだろう。街へ戻るのなら、一緒にリリーを連れて行ってくれないか? 彼女は若いに似合わず冷静で、頭もキれる。未来の長候補と言っても過言ではない。外の世界を知る事によって、後々の世代交代にも何かしらの好影響を及ぼせるかも知れんしな」 という提案を長から受ける。

その提案に対して、(何だか面白そう!)という気になった。

だから、連れて帰って来てみました。

もちろん、彼女の帰郷までの日々は『アマゾネス美少女滞在記』として本にする予定です♪


「という感じね」
「……すいません、ボス。一体どこからツッコめばいいのかわかりません」

 ニコニコ顔のボスと、鈍い頭痛を感じてうつむく僕。
 我が社では、非常にしばしば発生するおなじみの構図である。

「そんな深刻に考えなくても良いのよ。例えば、ほら。前からあなたが進めてたあの企画の編集。あれなんか、リリーの勉強に打って付けの仕事だと思わない? それに、手伝ってもらえばあなたも助かるでしょう? ほら、一石二鳥じゃないの」
「あぁ……まぁ、確かにそうかも知れませんね」

 この国において、【人間と魔物の夫婦】は、今やそれほど珍しい存在ではなくなった。
 種族の違いや立場の違いを乗り越え、時に粘り強く、時に劇的に愛を育んだ人々は、それぞれにとっての幸せで暖かな日々を送っている。
 とはいえ、全ての物事が円滑に進む
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