魔物である彼女達からの証言は、以上である。
だがもちろん、彼女達以外にも、様々な貢献と無償の愛情を示してくれた魔物達がいた事を決して忘れてはならない。
例えば、下水道の復旧作業に協力してくれたバブルスライム達。
例えば、復旧工事に欠かせないシャベルやツルハシを製造・提供してくれたサイクロプス達。
例えば、各種の薬草や果物、栄養たっぷりの蜜などを運び続けてくれたハニービー達。
……その他にも様々な種族の魔物達が、己の技能や特性を活かし、苦しみの中で膝をつきかけた我々人間を救ってくれたのである。
また、魔界からも多種多様な救援物資が届いたという事実を、ここに記しておく。
それは、地震発生翌日の出来事。
王宮の正門前に誰にも気づかれること無く、大量の物資が積み上げられていたのである。
中身は、医薬品、食料、貴重な魔界の鉱石と植物、そして魔王からの親書であった。
その親書は、すぐさま国王陛下のもとへと届けられた。
目を通された国王陛下は深く頷き、「お心遣い、感謝いたします」と呟かれたという。
現在までに明らかになっているその内容は、以下の四点。
・親書の文面は、『王が王へ送るもの』としてふさわしい、礼節あるものであった。
・長きに渡り、魔物達と良好な関係を築いて来た我が国への、感謝の言葉が綴られていた。
・医薬品と食料は、人間が口にしても一切害は無い事を保証する旨が綴られていた。
・魔界の鉱石と植物に関しては、売却して復興資金に換える事を望む旨が綴られていた。
「その他にも、いくつかの事柄に関する文章が綴られていたが、全てを明かす事は出来ない。これは国民に対して秘密を作るという意味ではなく、『王と王』としての礼節と理解して欲しい」
国王陛下の穏やかなお顔とお言葉から察するに、そこに敵意や悪意は存在していなかったものと思われる。
そもそも、あの混乱に乗じて魔王が我が国へ攻め込む事は容易な事であっただろう。
しかし、実際にはそのような行為に及ばず、援助の手を差し伸べた事から考えても、下品な勘ぐりは必要ないと結論付ける事が出来るはずである。
今回の震災は、我々にとって様々な驚きと反省点を突きつけるものとなった。
今後は、【災害に強く、人と魔物に優しい国づくり】が大きなテーマとなっていくだろう。
先月より発足した《ジパングに学ぶ、自然災害への心得学習会》は、それに向けた取り組みへの第一歩である。
遥か東方のジパングでは、定期的に発生する地震とそれに伴う大波対策 ・ 同じく定期的に噴火する火山対策 ・ 夏から秋にかけて複数襲来する大嵐対策など、各種の自然災害に対する備えと学習が行き届いているという。
そこで、我が国に暮らすジパング出身者、さらには稲荷や河童、ゆきおんなやジョロウグモといった、ジパングにルーツを持つ魔物達から、自然災害に対する知恵を授けてもらおう……という試みである。
「ジパングの技術と発想は、本当に素晴らしい。向こう流の表現で言う所の、『目から鱗が落ちる』という気持ちです!」
建設局のとある技師が発したこの言葉が、学習会の有意義さを物語っているといえるだろう。
震災の最中において、その後において、未来への取り組みにおいて、我々は魔物達の力を借りた。
彼女達は良き隣人として、良き友として、良き伴侶として、我々のために汗を流してくれた。
我々は、そんな彼女達のあたたかな心に、しっかりと報いていかなければならない。
何故ならば、隣人に微笑み、友と肩を組み、伴侶と寄り添いあう事は、当然の事なのだから。
力を貸してくれた相手に「ありがとう」と伝える事は、大切な事なのだから。
我々は、思い、願う。
何か特別な事をするのではなく、無理に難しい事を言うのではなく、これまでも、これからも、彼女達と共にありたいと。
震災は様々なものを破壊し、かけがいの無い存在を奪って行った。
しかしその中でも壊れず、奪われず、我々の手の中に残ったものがあるはずである。
このレポートを手にし、目を通したあなたにお願いしたい。
人と魔物の現在と未来のために、今、あなたに出来る事を成して欲しい。
彼女達への愛と感謝を忘れないで欲しい。
街の復興と国の発展、そして人と魔物のより良い明日は、そこから始まる。
そんな私の確信を記し、このレポートを終わりにしたいと思う。
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