《 医療と街の安全 : ユニコーン、リザードマン、ケンタウロスなどの活躍 》
各地の病院や診療所には、地震発生直後より数え切れない程の重軽傷者が運び込まれた。
従軍経験を持つとある医師は、当時の様子を「最前線の野戦病院よりも、なお酷い有様でした」と回想している。
しかしそれでも、現場の医師や看護師達は『命の守り手』としての誇りを胸に、その絶望的な状況下において、最善の仕事を行い続けた。
倒壊した家屋の柱や木片を骨折の添え木に利用する、女性が使用する月経布を裂傷の出血止めに転用する、地域の住人が運び込んだダイニングテーブルを即席の手術台として活用する……などなど、各種医療物資の不足をとっさの機転で乗り切ったという報告も数多く存在している。
そうして培って来た技能を正しく発揮する人間がいる一方……被災地には、己の欲を満たすために邪なる技を駆使しようとする者達も紛れ込んでいたのである。
人の心の、明と暗。
時に美しく、時に嘆かわしいその落差の中で、我々に力を貸してくれた魔物達がいた事を決して忘れてはならない。
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☆とあるユニコーンの証言
はい。
私は、医師である主人と共に、この診療所で怪我を負った皆様の治療にあたっておりました。
ここは、市街の中心部から少し離れた、森や田畑があるエリア……いわゆる、郊外と呼ばれる場所ですが、地震発生の直後より、数多くの患者さんが運び込まれて来たのです。
裂傷、打撲、骨折、火傷から、脳や内臓への深刻なダメージが疑われるものまで、その怪我の内容は様々……。
私達夫婦は、床いっぱいに散らばってしまった本やカルテを拾う事も忘れて、一人一人の患者さんと一生懸命に向き合いました。
重症と思われる患者さんへは、主人が冷静な診察と処置を。
軽症と判断出来る患者さんへは、私が素早く治癒魔術を。
そして、命の危機と認められる患者さんに対しては、躊躇うこと無く二人がかりで……。
血と汗と埃の匂いに満ちた診療所の中で、私達はそれぞれの医術と魔術を全力で駆使し続けました。
しかし……やはり、と言うべきなのでしょうか。
二人だけの努力では、全ての患者さんへ対応出来なくなってしまったのです。
時間の経過と共に、患者さんの数はどんどんと増え続けていきました。
これは後に知った事なのですが、市街の病院で受け入れを拒否されたり、順番待ちのリストから漏れたりした皆さんが、次第に郊外へと溢れて来ていたそうで……。
診察室や待合室はもちろん、診療所の外にも傷つき、苦しむ皆さんが列を成す状況に、私達夫婦は一瞬ですが、呆然と立ち尽くしてしまったのです。
当然の事ではありますが、診療所内の医薬品や医療品の数には限りがあります。
同じ様に、私の魔力も無限ではありません。
(これは、『決断』しなければいけない)
主人も私も、思う事は同じでした。
そして私達は視線を合わせて、深く頷き合ったのです。
「皆さん! お願いです、聞いてください!」
両足骨折の重症を負っていた患者さんへの処置を終えた直後、主人が順番を待つ皆さんへ大きな声で言いました。
「ご覧の通り、現在は大変な状況です! しばらくの後に、国内外の救援部隊や医療部隊が到着すると思いますが、それまではこの地に暮らす私達自身が頑張らなければいけません!」
そこで主人は一旦言葉を切り、ゴクリとつばを飲み込み、再び口を開きました。
「そこで、お願いです! 今は、重症を負った患者さんを優先させてください! 自力で動ける方、喋れる方は、申し訳ありませんが順番を譲ってください! お怒り、憤りのお気持ちはもっともです! ですが! ですがどうか、お願いいたします!」
主人の声は、だんだんと涙声に変わっていきました。
妻としての贔屓やノロケなどではなく……私の主人は、本当に心の優しい人物なのです。
幼い頃にお父様を亡くし、看護師として働くお母様と二人で生きて来た主人は、人の心と体の痛みを理解出来る、あたたかな男性へと成長したのです。
主人が医師への道を志したのも、「病や怪我に苦しみ、悲しんでいる人を、一人でも多く、一秒でも早く助けてあげたいんだ」という、その一心からだったのです。
そんな主人が、怪我を負った皆さんに優先順位をつける決断を下したということ。
「重症も軽症も、それが患者さんを悩ませるものである以上、全ての怪我や病気に対して等しく、真摯に対応しなきゃね」と言っていた主人が、理解と我慢を求める決断を下したということ。
あの時、主人の横でただ深く頭を下げる事しか出来なかった私は、妻失格だったのかも知れません……。
「ん〜……この状況じゃ
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