《 これまでとこれから、あなたの夢は何ですか? 〜 ワーラビットのノアさんの場合 》
目を閉じれば、今もハッキリと思い出せます。
鼓笛隊のドラムロール。
舞台上に緊張した面持ちで整列している、ボク達二十八人の新人料理人。
ワクワクした瞳でそんなボク達を見つめている、大勢のお客さん。
そして、成績優秀者のリストと魔法拡声器を持った司会の女性。
「新人料理人コンテスト:スイーツ部門銀メダルは……ミストラル総菜店所属、ワーラビットのノアさんです!」
自分の名前がコールされた時の、あの驚きと嬉さったら、もう!
まず最初に、「えっ!?」と思って、固まっちゃったんです。
次に「ボクっ!?」と驚いてから、無意識に両腕を空に向って突き上げてました。
さらに、「うひゃああっ!?」とか訳のわからない事を言いながら、舞台の上をピョンピョンと勢い良く跳ね回っちゃって。
お客さんや審査員の先生方に笑われちゃいましたけど、本当に色々な感情が爆発して、どうにもこうにもならないほど嬉しかったんです!
そうしてひとしきり喜んだ後、鼓笛隊の皆さんが演奏するメダル授与の曲が流れ出して……。
「銀メダル、おめでとう! 人間以外の存在として、君はコンテスト史上三番目のメダル獲得者だ。これは素晴らしい成果だよ。『料理の道において、種族の違いなど関係ない』という事を、君は証明して見せたんだ。同じ料理人として、君に尊敬の気持ちを捧げるよ」
「あ、ありがとうございます! 嬉しいです! 光栄です! な、泣きそうですっ!!」
審査員兼プレゼンターとして招かれていた、隣国の有名シェフの方が、ボクの首にメダルをかけながら、そんな事を言ってくださったんです。
ボクにとってその言葉は、大げさではなく、銀メダル以上の価値があるように感じられました。
「さぁ、それではノアさん、どうぞこちらへ。銀メダル獲得の喜び……その声を聞かせてください」
感極まりかけていたボクを、司会者の女性が舞台の中央へ招きました。
そして、魔法拡声器を優しく手渡してくれて……ボクは、舞台の上から旦那さんを探したんです。
キョロキョロと視線を走らせると、彼は客席の真ん中辺りいて。
こちらに向って満面の笑顔で、ブンブンと大きく手を振ってくれていました。
その姿を見て、ボクは心から思ったんです。
あぁ、今なら、自分の本当の気持ちを、彼に伝えられそうだなぁ……って。
……ところで、アカオニのハルナちゃんは元気にしてましたか?
うんうん、なるほど。相変わらずお酒を呑んでいましたか。
フフフ、いつも通りで結構結構、ですね。
はい、そうです。
ハルナちゃんの言う通り、ボク達はあの草原の集落で生まれ育った幼馴染なんです。
いつも一緒に遊んで、叱られて、ご飯を食べて、時々ケンカもして、でもすぐに仲直りをして……ボク達は、そんな二人だったんですよ。
本当にあの集落は、ボクのふるさとは、素敵な場所なんです。
あそこには、種族や魔力がどうだとか、人間と魔物の関係がこうだとか、そんなツマラナイ事を言う存在はいないんです。
集落の住人同士はもちろん、近くの人間の村の皆さんとも仲良しな事が、その一つの証拠ですよね。
魔物といがみ合っている国の人が見たら、驚き過ぎて目を回すような、そんなほのぼのとした素敵な関係ですから。
う〜ん、例えばそうですね……毎年秋には、ボク達と人間の皆さんの合同で、運動会を開いてるんですよ?
ハルナちゃんのママなんて、綱引きの名手として有名なんですから。
腕自慢の人間の男性達が束になってかかっていっても、ハルナちゃんのママがブンと片腕を動かしただけで、みんな吹き飛ばされちゃったり。
あと、プログラムの最後は、人間&魔物の混成チームをいくつか作って、対抗リレーをするんです!
やっぱり、運動会の花形といえばリレー! そして駆けっこといえば、ボク達ワーラビットです!
毎年みんなを熱狂させた、ボクとボクのママの大活躍……是非ともご覧に入れたかったですねぇ。
おっととと、話がズレちゃいましたね。ごめんなさい。
え〜っと、それでは次に何をお話しましょうか。
それでは……そもそも、『どうしてボクがお菓子作り、料理作りの道へ進んだのか』という所から行きましょうか。
いきなり結論を言ってしまうと、【行商ゴブリン隊の方が持って来た、美味しいケーキに心を鷲づかみにされたから】という事になります。
ボク達の集落は本当に素晴らしい所なんですけど、唯一、買い物に不便という難点がありまして。
基本的には、自給自足。
そして足りない物や自分達で作れない物は、人間の皆さんの村で買う。
……という形だったのですが、やっぱりどうして
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