結婚する際の心構えは、どんなものでしたか?

《 結婚する際の心構えは、どんなものでしたか? 〜 アカオニのハルナさんの場合 》

 ん〜、そうさねぇ。
 人間と結婚するにあたっての心構え、ねぇ……。

 こういう言い方をしちまうと、身も蓋もなくなっちまうんだろうけど……。
 結局、【自分と旦那は、別々の存在であること】を自覚するって話に尽きるんじゃねぇのかい?

 ん? ふむふむ……確かに、ずいぶんと冷たい物言いに響くわなぁ。
 言ってるアタイ自身が、こりゃ誤解されちまいそうだなぁって思ってるくらいなんだから。
 でもね、こいつにはそれなりの訳ってもんがあんのさ……。


 まず、アタイ自身の事について話そうか。

 見ての通り、アタイはアカオニだ。
 本来なら、この国にはいない種類の魔物だね。
 アタイ達アカオニの故郷は、ここから遠く遠く離れたジパング……そう、どこかの旅人が『黄金の国』なんて呼んでるらしい、そのジパングさ。

 こっちじゃ珍しいもの扱いをされる事もあるんだけど、ジパングじゃそれなりに敬われてるんだよ、アタイ達は。
 地方によっちゃ、神様と同じように祀られてたりするくらいなんだから。

 ……む? 何だい、その顔は。
 信じられないって面してるよ? アタイの説明に、何か文句でもあんのかい?
 ふっ……アハハハハ! 悪い悪い、冗談さぁね。すまないね。
 でも、アタイの言葉に嘘は無いよ。

 アカオニが嫌うものって、知ってるかい?
 例えばそれは、炒った豆、柊の枝に挿した焼き鰯の頭、菖蒲……そして、つまらない嘘さ。
 
 アタイ達は、酒や正直者が大好きだ。
 そして反対に、小ざかしい嘘や謀が大嫌いなんだよ。
 だから、アカオニは嘘をつかない。信じてくれて良いよ。
 ちなみに……弱点は他にもチラホラあるんだけど、その辺は『嘘』じゃなく『内緒』って事で頼むよ。


 さて、ちょいと話を戻そうか。

 人間の中には、物好きと呼ばれる奴や、無謀な冒険を好む奴なんかがいるだろう?
 実はそういう手合いは、アタイ達アカオニの中にもちょこちょこいてね。
 よせば良いのに色んな事に興味を持った挙句、住み慣れた里から飛び出しちまったりする訳さ。

 そこで、さ。
 そんな冒険好きの人間と、物好きなアカオニが出会っちまったら……どうなるかね?
 アタイの親父とお袋は、そんな二人だったんだ。

 親父は、この国生まれの冒険家。
 お袋は、ジパング生まれのアカオニさん。
 当時十七の親父は周りの反対を押し切って、両親にも勘当されて、それでも懲りずにジパングを目指したんだ。まったく、馬鹿だよねぇ。
 で、六年の苦難の末についにジパングにたどり着き、あっちこっちとうろつき回っている中で、お袋と出会ったんだとよ。

 親父が言うには、山奥で酒樽を頭からかぶって寝てたらしいんだな。お袋は。
 で、「ほほぉ、これがアカオニかぁ」なんて言いながら観察してたら、唐突に目を覚ましたお袋に見つかって、そのまま押し倒されてご結婚、さ。
 な? すっげぇ頭の悪ぃ話だろ? 真似すんなよ?

 で、順番も何もメチャクチャだけど、親父とお袋は色んな事について語り合って、お互いを理解し合っていったらしいんだ。
 そして、お袋は……これまたよせば良いのに、決断しちまったんだねぇ。

「聞けば聞くほど、あんたの話は面白い。あんた自身も、面白い。気に入った! アタシは、あんたと一緒にどこまでも旅をするよ! 海でも山でも、越えて行ってやろうじゃないのさっ!!」

 そんな調子で、アカオニさんお一方、ジパングより輸出決定〜……さ。
 最初、親父は冗談だと思ってたらしいんだけどね。
 でも、さっさと旅の支度を整えて、知り合いのジョロウグモや稲荷に挨拶をしている姿を見ているうちに、「あぁ、これは本気なんだな」と実感したんだとよ。まったく、遅いっての。

 まぁとにかく、そんなこんなの末に親父は来た道を戻り始めたんだ。隣に、物好きのアカオニを連れてな。
 行きは六年かかったけど、帰りはコツを掴んだのか何なのか、半分の三年で戻って来た。
 そして、生活が落ち着くのと同時に、お袋の腹には新たな命が宿った……そう、それがアタイ。
 この国生まれのこの国育ち、アカオニのハルナさん誕生って訳さ。


 あとまぁ、これは余談なんだけども……。
 帰りの道中は、親父がお袋のすごさを知る旅になったらしいよ。

 そりゃあ、ねぇ。
 例えば、盗賊団が出ると聞けば暇つぶしに壊滅させて、横暴な貴族がいると知れば殴りこんで改心させて、食い物に困ったら「刺身だ刺身!」とか言いながら生の魚をバリバリ食って……。
 三年間みっしりとそんな姿を見ていれば、普通の感性じゃない親父だって「こりゃ参った」と思うだろうさ。
 何せ、実の娘であるアタイだって、未だに
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