いきなりですが、私には好きな人が居ます。
ですが、その人は私を拒絶し、遠くの街へと去っていってしまいました。
……別に彼だけが悪いわけじゃありません。
確かに、あれだけ私はあの人を求めたというのに、あんな化け物を見たような表情で逃げなくても、とは思います。
でも、あの人はあんな状況に置かれ、いろいろと限界だったんでしょう。
見知った物が見知らぬ物へと、何の前触れも脈絡も無く、いきなり変わってしまって、そしてそのおかしさを認識しているのはあの場で自分一人だけ。
そんな混乱の極限に置かれた彼に、あのような行為をすれば、それはすなわちもう一センチも残っていない爆弾の導火線に火をつけるようなもの。
だから、彼だけが悪いわけじゃない。
彼も、私も、私を変えてくれたあの人も、そしてその時の状況も、全部がきっと悪かったんだと思います。
そうであって欲しいと……願います。
※ ※ ※
「好きなんでしょ? 告っちゃいなよ」
好きな人が居る。
そう友人に相談したら、帰ってきた言葉がこれだった。
簡単に言ってくれる。
「簡単に言われても……」
実際、口からもそんな言葉が出てきたわけで。
でも、友人はそんな私の言葉を聞いて、ため息一つ。
「はぁ……甘い、甘いよつむちー。ハチミツかけたシナモントーストより甘いよ。言葉にしなきゃ、思いは伝わらないんだよ? 黙ってても思いが伝わるなんて、そんなん漫画の世界だけだよ」
「ゆ、夢の無いお言葉……」
「黙らっしゃい。夢にかまけて現実で幸せつかめなきゃ意味ないわい。それに、もう悠長にしてる時間も無いでしょ? もうちょいで卒業よ? 私たち」
そう、そうなのだ。
既に私たちも卒業を控えた身。
もうすぐやってくる卒業式が終われば、それぞれはそれぞれの道を歩み始める。
その道が重なることなんて、非常に稀なのだ。
故に、友人の言ってることは分かる。
分かるのだが……
「それでも、そんな簡単に告白できてたら苦労は無いですよ」
そもそも、そんなにほいっと告白できるならこんなに悩むまでもなく、とっくに告白しているわけでして。
かといって友人の言ってることも分かるというこのジレンマ。
「……かぁー! だめね、だめだめね! そんなヘタレじゃ恋の戦争には生き残れないわよ!」
「せ、戦争って……」
「お黙り! 恋は戦争なのよ!? とるかとられるかの壮絶な争いなのよ! 今自分以外狙っていないと甘く見てると横から奪われる。そんな油断できない戦争よ、恋ってのは」
「は、はぁ……」
拳を握り力説する友人に、間の抜けた返事しか出来やしない。
恋って、そこまで壮絶な物なのだろうか?
私が思う恋って言うのは、そんなに切羽詰ったものじゃなくて……
でも、さっきも友人がいってたとおり、そんな恋は漫画だけの話なのかもしれない。
いや、実際そうなのかさえ分からないけど。
だって実際恋したのだって今回が初めてなんだし。
「……恋愛は戦争、かぁ……」
やっぱり、こっちから頑張らないと駄目なのかもしれない。
※ ※ ※
で、決意した結果。
「……駄目でした」
「このヘタレ子ちゃんめ」
「酷いです……」
結局告白なんて出来ませんでした。
いや、それどころか、変に意識しちゃったせいで、そもそも声をかけるという事自体出来なかったという、根本的な問題だったり。
……しゃあないんです。
私は悪くありませんし。
いざ普通に話しかけるってなった際、告白という二文字が脳内をよぎるどころか、とどまり、リズムよくタップダンスを踊るわけで、嫌でも意識せざるを得ない状況になり、結局ロクに話せないと言う状態になっちゃったんわけで。
悪いのはここぞという場面で頭に入り込んでくる告白という二文字のせいに違いない。
「いや、流石に意識しすぎでしょうに」
ぐうの音も出ない正論だった。
そして項垂れる卒業式後。
後は担任の最後の言葉を聞けばこの学校との縁も終わり。
そして、飛鳥さんと会えるのも……
「……はぁ……」
なんて
なんて自分は弱虫で、卑怯なんだろうか。
結局、勇気を出せなかったのは自分のせいなのに、勇気を出せなかった結果訪れたこの結末を認められないで居る。
それどころか、どこかの誰かがこの結果を覆してくれないかと他力本願にまで至る始末。
自分でなく、別な誰かに何とかしてもらおうと、私は考えているのだ。
ほんと……これを卑怯といわず、何を卑怯と言えばいいのだろうか。
まぁ、どうせ思うだけはただなんだし……と自己弁護を忘れない辺り、後ろ向きに念を入れる始末。
ちらりと横目で飛鳥さんを見る。
なにやら真剣に担任の最後の言葉を聞いている。
こんな卑怯なことを考えている自分とは大違いだ。
「あぁ……ほんとに、誰かどうにかして欲しいです
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