02 いや、ここはゾンビにすべきだよ、お兄ちゃん!

草木も眠る、丑三時。

そこは無くなった村人が眠る集団墓地。
墓守も既に夢の国に旅立ち、その墓地にいる存在など無い……筈だった。

「あら、この感じ……」

その影は、女性だった。
腰まで伸ばした白い髪を生ぬるい夜風になびかせ、その女性はある墓を見つめていた。

「魂は抜けちゃってもうないけど、体がその思いを抱いている……? うそ、この子、いったい生前どれだけ強い思いを抱いていたのよ?」

女性はその後もぶつぶつ呟き、そして納得したように数回頷く。

「……うん、この子の思い、ここで見ないふりなんて出来ないわ! 私があなたをまたあわせてあげる……あなたのお兄さんに!」

そういうと女性は墓石……いや、墓の土に向かって手をかざし、何事かを唱える。
やがて、満足したようにため息をつくと、その場を立ち去った。

「会えるといいわね、お兄さんに」

そして、女性が去った墓場に、ぼこ、ぼこと何かを叩くような微かな音が響き渡る。
その音はやがて大きさを増し、それどころか音が鳴る間隔も早くなっている。
そして、ある墓石の傍の土が盛り上がり、土を突き破るように一本の腕が現れた。

地面から生えた腕は、まるで周囲を探るように右往左往し、やがて地面をしっかりと掴むと、力を込め始める。
その腕につられる様に次第に土の盛り上がりも大きくなっていき、完全に土がどけられる。

現れたのは……人だった。

「あ、あぁ……お、に……ちゃ……」

土の中から現れた人影はかすれた声でそう呟くと、よたよたとおぼつかない足取りでその場を立ち去った。

先ほどの白い女性、そして人影が現れた墓の墓石に刻まれた名前、それは……

−−リアナ・グリンヤード−−


※ ※ ※


ぼんやりと部屋の天井を見上げる。
本来ならもうとっくにおきて農作業をしている時間だ。
しかし、今の俺にはどうしてもそれが出来ない理由があった。
それは……

「うみゅ……おにいちゃぁん……」

なんだかゴーストになって帰ってきた妹がしっかりがっちり抱きついてきており、身動きが取れないのだ。
もちろん、無理に引き剥がそうとすれば出来るんだろうが、それをやると後が怖い。
今のリアナはまさに何をしでかすか分からないエロティック・モンスターなのだ。

ちなみに、なんでこんな風に一緒のベッドで寝てるかと言えば……察せよ! 言わせんな恥ずかしい! いや、ほんとに恥ずかしいから!!

「ん……ふぁ……あ、おはよ、お兄ちゃん」
「お、おう、おはよう」


妹の無防備な様子にこみ上げてくるものがあるが、何とかおしとどめる。
……溺れすぎだろ、俺。

寝ぼけ眼の妹に無意識のうちに伸びる腕をなんとか押さえ込んでいると、ふと誰かに腕を触られた感触。
最早確認するまでも無く、妹が俺の腕をとっている。

「お兄ちゃん、また、する?」
「…………」

その一言に、理性がガツンと揺らぐが、耐える。
今この言葉におぼれたら畑の作物の世話ができん!!

「ま、また今度な! じゃ、じゃあ俺畑仕事に行って来るから!!」

なんとか妹の誘惑を振り払い、ベッドから飛び降りると、俺はすぐさま部屋から逃げ出した。

……ヘタレいうなし。


※ ※ ※


なんだかあたまがぼーっとする。
なにかかんがえようとしてもなにもかんがえられない。

でも、ひとつだけわかる。

わたしは、おにいちゃんのところにかえらなきゃだめなんだ。

だって、おにいちゃんはわたしのだいすきなひとで……だいすきなひとで、なんだっけ?

よくわかんないや。
でも、とにかくおにいちゃんのところにかえって、ただいまってして、ぎゅってしてもらうんだ♪

あ、ここだ。
わたしのいえで、おにいちゃんのいえ。

おにいちゃん、ただいま。

「あ、お兄ちゃんおかえりなさ……え?」

あれ? このこだれ?


※ ※ ※


畑での作業を終えて、家に帰っているまさにそのときだった。

「ぎ、ぎにゃああああああああああ!?!? お、おおおお、お化けえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

家が視界に入り、あの家に待ってくれている家族が居ることに思わず微笑んだ瞬間、その叫びが響いた。

「っ!? リアナ!?」

慌ててかけだし、家の扉を蹴破る勢いで開けるとそこには……

「あ゛ー? う゛ー?」
「うぎゃあああ! こないでこないでー! お化け怖いよーーーーーー!!!」

なにやら着ている服を土で汚した何者かと、その何者かをお化けだお化けだと怖がっている妹が居た。
が、何者かは特にリアナに害意はないようで、自分を怖がっているリアナをただただ興味深そうに唸りながら見ている。
それはともかく。

「……なんで幽霊がお化け怖がってんだよ……っていうかお化けじゃなくて人だろうが」
「! お、お兄ちゃ
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