『か、影繰だぁ!!』
『くっ……おのれ!影繰……!背信の徒め!!』
これは……ああ、これはあの日のことか。
ということは、これは夢かな?明晰夢という奴か。
これは大体一ヶ月くらい前、僕がギルドで受けた依頼を遂行しているときの光景。
受けた依頼は単純明快、ある邸宅に住む住人の抹殺。
しかも、それがたとえ誰であろうと殺せ、一人も生き残すなとのこと。
まともに影を操れなかったそのころの僕に非常に適した依頼だった。
だって周りの被害なんか気にしなくてもいいんだから。
何を壊しても自由、誰を殺しても自由。むしろそれでお金がもらえる。しかも破格の。
当然受けた、嬉々として。
アニー曰く、そのときの僕は「不気味なくらい無邪気な笑顔をしていた」とのこと。
まぁ、それは置いておこう。
それで、僕はそこにいた教会関係者を殺した。
全ての部屋を調べ、隠れている人を見つけ出し。
それがたとえ男だろうが女だろうが、老人だろうが若い人だろうが、とにかく皆殺しにした。
『……ふぅ、これで全員かな?』
一息ついたころには、館の壁中に赤い血しぶきがへばりつき、血が酸化したせいで錆びた金属の臭いが漂っていた。
『さてと、それじゃあ帰りますか……朝になる前に』
そうして僕は玄関へ向かおうと、部屋の扉に手をかけたときだった。
カタ……
『……やり残しか』
影がざわざわと蠢く。
音がしたのは今いる部屋……この屋敷で一番偉い奴の部屋の隣……
たしか先ほど確認したはずだけど……
その部屋に入り、明かりが無い部屋に目を凝らす。
『…………?』
最初は何も見つからず、先ほどの音は何かが転がり落ちた音、または気のせいと思っていた。
しかし、よくよくみると部屋のベッドが膨らんでいる。
それに耳をすますとすーすーと規則正しい寝息。
『……呑気なものだね、こんな時に寝れるなんて』
将来、大物になることは間違いないだろう。
もっとも、そいつに将来は無いわけだが。
ベッドに近づき、掛け布団に手をかける。
万が一罠だった時のことを考え影はすでにスタンバイ状態。
そして、掛け布団を取り去った。
『……!?子ども……』
子どもだった。それも相当幼い少女。
そんな少女が、周りで起こっている惨劇を知らぬまま、すーすーと寝ている。
『……悪いけど、これも依頼だから』
そう呟き、影で貫こうとした。
影がその少女を貫こうとしたとき、
『お兄ちゃん』
『っ!?』
頭に妹の姿が浮かんだ。
そしてその妹が体中を穴だらけにされた姿を。
『やめろ!!』
思わず大声を出してしまった。
その声に反応し、影が少女まであと数ミリというところで止まる。
少女は……
『う〜ん……』
間近で大声を出されたというのに顔をしかめ、寝返りをうっただけで、まったく起きる気配が無い。
『…………』
一人も生かしておくなというのが依頼だ、だからこの子も殺すべきだ。
当然そうすべきなのは分かりきっている。
しかし、影を動かそうとすると目の前にあの日の妹の惨状がちらつく。
『…………今まで殺しておいて、何を悩む?影繰……』
そうだ、僕は影繰だ……
僕は目を閉じ、そして深呼吸を数回し、目を開けた。
そして、影に命令を出す。
命令を受けた影は、先端を天井に向け、少女から離れていき、そして再び先端を少女に向けた。
『……ごめんね』
そして、僕はその先端を……
「……あ?」
そこで眼が覚めた。
目を開けるとそこはあの日の部屋ではなく、僕が借りている裏ギルドの一室。
当然少女はいない。
「……あ〜……あんな夢見るなんてね」
ベッドから起き上がり、寝ている間に凝り固まった体をほぐす。
しばらく柔軟をこなし、だいぶ体がほぐれたところで柔軟をやめる。
「えっと、今日は……特に依頼無しの日だったっけ?」
頭の中の予定帳を開き、今日の予定を確認。
すると今日は『一日依頼受諾禁止の日』だった。
これは今日一日は裏ギルドは一切依頼の受諾はしませんよという日。
何でもそう頻繁に活動してしまったら教会に怪しまれるとかなんとか。
このギルドに所属する際、ギルド長がなにやら言っていたようだが、あいにくと聞き流していたのでよく覚えていない。
ただ分かること、それは今日は依頼を受けれないということ。
こうなってしまっては今日一日は僕も影繰としてではなく、キト・ラファエーラとして過ごさなければならない。
「あ〜あ、気が乗らないなぁ……」
とはいえ、そうぼやいたところでこの規則が覆るわけでもないので。
「……よし、出かけるか」
今日一日この地下に引きこもるのもどうかと思うので、今日は出かけるとしますか。
「お影繰、あんたも出かけるのかい?珍しく普通の服着て」
手早く備え付けのシャワール
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