CASE 1 開祖

とある村は壊滅の危機にひんしていた!
村の近くに居城をかまえるヴァンパイアがその村の未来ある少年……
ぶっちゃけ言ってしまえば村のショタ達(それも美ショタ)を根こそぎさらっていったのだ。
いくらショタとは言え、その村では立派な労働力。
このままでは農作業やら家事雑務やらの効率がダダ下がり、ついでに息子をさらわれた家族のテンションもダダ下がり。
前々からあの吸血鬼がショタ好きを公言していたため、いずれ一人二人はさらってしっぽりやらかすんだろうとは思っていたが、まさかここまでやるとは予想外。
唯一の救いは、あのショタ好き吸血鬼がさらった美ショタ達を殺すことは、つるぺたロリの代名詞バフォメットがいきなりムチムチな妖艶美女になるよりありえないということか。

というか、ここまで大袈裟にいろいろ言っているのは村長だけで、実際農作業やらの効率が下がっているということはないし、そもそも息子をさらわれた家族も『明後日くらいには帰ってくるでしょ』と能天気なもの。
確かにあの吸血鬼はショタ好きな変態だが、変態という名の淑女だしという、本人が聞けば微妙な顔をする信頼からくる考えだった。

そんな騒いでいるのか騒いでいないのかわからない村に、ある一人のヴァンパイアハンターが立ち寄ったことから、この話は始まる。


※ ※ ※


「ふはははは! お前は私のカキタレになるのだ!」
「た、たすけてー(棒)」

吸血鬼の居城、その主の部屋。
そこでは一人の吸血鬼が「見せられないよ!」な顔で美ショタに迫っていた。
それに対し、美ショタは棒読みで助けを求める悲鳴を上げるだけ。
……おい吸血鬼、貴族の振る舞いどこに投げ捨てた。

「ふふふ、これが貴族の振る舞いとは程遠いことは百も承知! だがもう我慢ならん! 貴族の振る舞いなんぼのもんじゃい! プライドで腹はふくれんよ!!」

魔物としてはセーフだろうが、なんだかアウトな考えだった。

「というわけで、いただきまーす! げへへへぇ」

なんだかというか完全アウトだった。

そんなアウトな吸血鬼がショタに覆いかぶさろうとした、まさにそのときだった。

「あのぉ……主様、よ、よろしいでしょうか?」
「どうした?」

先ほどまでのアウトな表情を一瞬で切り替えた吸血鬼が声の方へ振り向くと、そこには愛用の鎌を胸にかき抱いているナイトメアがいた。
この吸血鬼の腹心である。
採用理由は鎌を持っているから。
スケルトンに鎌もたせりゃ完璧じゃね?という案もあったのだが、あいにくスケルトンは面接に来なかったため、ナイトメアになった。
そんな理由で腹心にされてしまったナイトメアは、自らの主に向かって口を開いたのだった。

「侵入者がいるんですけど……」
「侵入者? この城にか? どんな愚か者なのやら……して、その侵入者はどのような?」
「えっと、その、名状しがたいというか主様とどっこいどっこいというか、とにかく実際見たほうが早いと思います」

というとナイトメアは懐から水晶球を取り出し、吸血鬼に渡した。
その水晶球は城のあちこちに施してある魔法陣と連結することにより、その周囲の光景を見ることができるというすぐれものだ。
いまや、やや辺境にある城とはいえセキュリティは万全でなければならない時代だ。
それはともかく、ナイトメアの自分とどっこいどっこいという発言に首をかしげながら吸血鬼は水晶球を覗き込む。
そこに映っていたのは……

『ドゥエドゥエドゥエドゥエドゥエドゥエ(以下エンドレス)』

まるでまぐろのように跳ねまわりながら城の廊下を高速で移動している変態が映っていた。

「へ、へんたいだー!!」
「だから言ったじゃないですかぁ! 主様とどっこいどっこいだって!!」

「失礼な! 私もここまでじゃないもん!」「さっきショタっ子にげへへって言ってたじゃないですか!」「てめぇ聞いてたな!?」などという内輪の争いなど知らないその男は相変わらずマグロのように跳ねまわり、途中進路上にいたワーバットを踏みつけそのまま撥ねつづける、もとい跳ね続ける。

「……ねぇナイトメア、私寝ていい? あの変態のこと忘れてふらふらとベッドに飛び込んでビクンビクンと痙攣しながら寝ていい?」
「それで帰って貰えるならそうしたほうがいいですけど……無理じゃないですかね?」

そうしたやり取りのうちにも男は跳ね続ける。
高い所に登る際は高速アッパーを連続でだしまくり、時折天井に頭をぶつけまくりながらも、その男は決して歩行はしない。
時折ミスったのか『アヘェ』などという声をあげながらも、その変態はまっすぐ城主の部屋を目指していた。

「……返そうか、男の子達」
「……ですね」

こうして、村に平和が戻ったのだった。
12/12/20 13:07更新 / 日鞠朔莉
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